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第14話

「なんか、静かなんだよな」  透は光希のことをそう言った。 「人から慕われてリーダーをやってる奴って、他の奴との会話にしれっと混ざっていくんだよ。自分が引っ張ってくのが当然って思ってるから。でも光希は、他の奴がが話してると、ずっと頷きながら聞いてるんだよな。会議の時にそれ見て、『ああ、こうやって気を遣う奴なんだ』って思った」  そして、それこそが光希の優しさなのだと、透は判断した。 「それ、は……」  たぶん、優しさなんかじゃない。前世の人見知りと不器用さの名残だ。自分が話に割って入って、気分を害してしまったらどうしようと思うからだ。  そんな光希のことを、他の人は誰も知らない。聞き上手だと言う人はいるかもしれないが、光希が気を遣ってそんなことをしているなんて、誰も思わない。  だって、この世界で、前世の高野光希を知っている人なんて、いないのだから。 「生徒会の仕事も、他の奴に気を遣って色々持ち帰ってんだろ。部活動予算なんか会計の保阪にやらせとけ」 「それは……無責任にならないかな……」 「ならねぇだろ。アイツ、ずっと「高野先輩は憧れです」って言ってんだから。頼られたら喜ぶぞ」  西田透は、本当に、人をよく見ている男だった。 「……ありがとう」  少なくとも、誰かに頼っていいのだというお墨付きは、一人で気を張っていた光希の心を軽くした。 「透のことも、たくさん頼らせてもらうね」 「いいけど、会議の板書くらいしかできねぇぞ」  その日から、光希は透を目で追うようになった。廊下ですれ違った時は思わず振り返り、席が窓際になった時は、遅刻する彼が焦りもせず校門をくぐるのを、窓からじっと見つめていた。彼がこっちを見つめ返してくれることはなかったけれど。  居眠りをしていたら、またブランケットをかけてくれるんじゃないかと期待して、生徒会室で一度だけ昼寝をしてみたけれど、彼はやって来なかった。  もし、見つめ返されていたら。もし、彼がもっと自分を見ていてくれたら。誰にも知られていない前世ごと、高野光希を暴いてくれるかもしれない。そう考える度に、期待で胸が高鳴り、ぎゅっと締め付けられるような気さえするのだった。  前世の高野光希は、誰かに憧れるという気持ちを知らない。誰かに恋をしたという経験もない。だから、現世でも西田透に対する感情に上手く名前をつけられなかった。  もう一度、彼と二人きりで話をすることができたら、きっと、忙しなく動く心に名前をつけられただろうけれど……そんな時は来ないまま、卒業の時を迎えようとしていた。

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