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第15話

 青空に旅立ちをテーマにした歌を響き渡らせ、最後のホームルームで教師からの別れの言葉をもらった後、体育館を出る。各々が教室で別れを惜しんでいる中で、光希は駆け出していた。  彼のクラスの教室。いない。廊下。いない。渡り廊下。いない。屋上――は当然ながら、安全性を考慮して生徒は立ち入り禁止。  靴箱を除くと、もう空だった。外を見ると、透は既に学校の外に出ようとしていた。その足取りの軽さからして、もうこの学校に何の感慨も抱いていないのかもしれない。  光希の中で、もう二度と透と話せないんじゃないかという寂しさが増していく。 「待っ――」  最後に一度だけでいい。声が聞きたい。欲を言えば、笑顔を見たい。彼に対するこの気持ちが何なのか、名前をつけたい。  しかし、透を呼び止めようと出した精一杯の声は、黄色い歓声に掻き消されてしまった。 「私、ここでずっと待ってて! 第二ボタンください!」 「もうお別れなんて、嫌です! 第二ボタンください!」 「ずっと、ずっと好きでした……っ! 第二ボタンください!」  かしましく聞こえる言葉も、不思議とすべて聞き取れた。どうしてみんな最後の一言は揃いも揃って同じなんだろうとは思ったけれど……彼女の気持ちが今ならわかる。  自分も、ずっと待ってたから。もうお別れなんて信じられないし、ずっと――。  そうか、僕は、ずっと彼のことが好きだったのか。  鼓動がにわかに早鐘を打つようだった。そして、その音は光希を急き立てる。せめて、最期に――。 「わかった! あげる!」  光希はブレザーを脱ぎ、一番近くにいた女子に手渡した。ひどい男だと自分でも思う。一世一代の告白の瞬間なのに、ブレザーを手渡して後はよろしく、なんて。普段なら、恥も外聞も気にして絶対しない。  でも、今はそんなこと考える余裕もなかった。前世の23年。プラス、現世の18年。合計41年の中で、こんなにも必死に走ったのはきっと初めてだ。

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