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第16話
しばらくすると、歩く透の背中が見えた。もう少しで追いつける。しかしそれよりも声が出る方が先だった。
「透っ!」
彼は振り向き、光希の顔を見て驚く。言わなきゃ。ここで。
「あ、その、えっと……」
前もこんな風にどもってた。生徒会室で。そんな風に思い出す余裕はあるのに、何も言葉が出てこない。
「どうした?」
透がゆっくりとこちらに近づいてくる。うつむく光希の顔を覗きこむようなことはない。ただ、待ってくれている。それだけ。
それだけのことが、優しさの表れなんだと光希は思った。
「こ、これからも、頑張って……?」
なんで疑問形なんだろう。というかそもそも、これじゃあ伝えたいことの一割も伝わっていない。
透はおかしそうに笑って、「光希もな」と言ってくれた。
他にも言いたいことはあるのに、言葉が詰まって上手く出てこない。そのまま、黙って透の背中を見送る。
これが、光希の初恋の一部始終だった。
教室に戻ると、ブレザーはボタンが全てむしり取られた上で光希の机に置かれていたけれど、そんなことはもうどうでもよかった。
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