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第20話

「なんでここに……っ」  透はカゴいっぱいに商品を入れていた。全部買う予定――というわけではなく、この店のエプロンをつけている。ということは、品出し中? というか、この店の店員? 「いや、俺もこんな場所で光希に会うとは思ってなかったし」  この言葉は何かを揶揄しているのか? 分からない。どう応えればいいのか、そもそもどう反応すればいのかが光希には分からない。  今の自分は、趣味だったものを久しぶりに満喫しようとするただの童貞で、優等生の生徒会長じゃない。会話の方法が分からないなんて、昔の自分に戻ったようで、ふわふわとした落ち着かなさが残る。  そんな光希の反応がおかしかったのか、透は静かに笑い出した。いつも不愛想な顔をしていると思っていたけれど、実は意外と笑うんだな、なんて、光希は現実逃避がてら考えていたりする。 「清純派で、年齢指定のつくものなんて知りませんって顔しときながら、意外と好奇心旺盛だったんだな」 「……っ!」  見透かされているのは、今の胸の高鳴りではなく、光希がカゴいっぱいに手あたり次第放り込んでいた玩具の山だ。 「そ、そうだよ。……ずっと、気になってたから」 「へぇ。気合い入れて変装までしてきてるもんな」  いたたまれない。恥ずかしい。彼が意地悪に人をからかうなんて知らなかった。そして、知っても嫌いとは思わない自分に気づきたくなかった。そんなの、重症だと認めるようなものじゃないか。 「も、もういい……っ! 帰る……」 「ああ、悪かったって。買い物しにきたんだろ」  俺のことは気にせず、どうぞ続けて。そう言われても、嫌な緊張で、さっきまでじっくり見ていた品物も、目が滑ってろくに理解できない。っていうかなんで触手にこんなに種類があるんだ。ピンクに水色に黄色に黄緑。カラーバリエーションが謎だ。 「…………どれから選べばいいのか分からない」  気づけば縋るような声で呟いていた。いや、別に不思議なことじゃない。だって彼はこの店の店員だし。この場では互いの素性は詮索しない、知り合いの姿は見て見ぬふりという暗黙の了解があるし。透も光希を客として扱うべきだろうと思ったりもする。 「んー、使用方法は?」 「し、しよう……ほうほう……?」 「なんで感情を知った宇宙人になってんの。玩具使うからには、あるだろ。恋人と盛り上がりたいとか、複数の相手を想定とか」 「い、いきなりそんなことできるわけないだろっ!」  何しろ、天下の童貞様なのだから。 「っつうことはおひとり様か」 「…………はい」  ソロプレイとかオナニーとかでいいのにおひとり様ってなんだよ。光希は人知れず、再度いたたまれない気持ちになる。

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