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第21話

「オナホだったらこの辺かな。オナホって今のご時世、レトロ商品だって思われがちだけど、これは優れモノ。自動で動いてくれるし、体温とか発汗具合とかをセンサーで感知して、興奮度合いに合わせて動きも調節してくれる。前買っていった客は、絶妙に焦らされる感じがしてたまらないとか言ってたな」 「そっか……」  説明を聞いてカゴに入れる。 「ほ、他には……?」 「ローションとかもあるぞ。風呂に入れると、ねっとりしてきてたまらなくなるタイプ。まとわりついてくるだけだから、結局自分から動かないとイけない感じが、焦らされていいんだと」 「焦らされるのが多いね……」  まあこれもカゴに入れとこう。 「さっき、触手見てただろ? ってことは、自分の意思ではどうにもならないものに焦らされたり、ぐちゃぐちゃにされるのが好きなのかなって思ったんだよ」  自分の性癖を短時間で冷静に分析されることが、こんなにも恥ずかしいことだとは思わなかった。けれど、それ以上に、彼の知識に圧倒されている自分もいるわけで。 「透は詳しいね」 「まあ、この店の子なんで」 「…………え?」 「親が経営者なんだよ。この店の。で、実家は裏にある。たまに品出し手伝わされたり、レジ打ちしたり、商品のポップ作らされたりとかしてる」  彼がE地区に通っているという噂は、あながち間違いではなかったらしい。正確には、通っているのではなく住んでいたわけだけど。若い人ばかりの地区だから、子どもまで一緒に住んでいるのは珍しいが、そこは家庭の事情というものだろう。 「親が家族そろって暮らしたいっていうから、俺もここに住んでる、それだけだぞ」  よく訊かれることなのか、先回りして答えられた。 「言っとくけど、説教も同情もいらねぇからな。可哀想とか教育に悪いとかよく言われるけど、俺は俺で楽しくやってる」  そのまま、透はそそくさとその場を立ち去ろうとする。そそくさは光希にそう見えたというだけで、別の商品の品出しをするのかもしれない。 「ま、待って!」 「何?」  振り返った透はけろっとした表情をしており、少なくとも光希と話すのが嫌で離れたわけでもないと知りほっとする。とはいえ、何を話すかも決めていなかった。

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