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第32話

「ん……とおる……」  光希の声で、透は感傷から我に返った。起きたのではなく、ただの寝言らしい。 「どんな夢を見てるんだか」  元生徒会長の王子様は寝顔も綺麗で、セックスによがり狂っていた時の蕩けた顔が信じられないくらいだ。  本当に、何の不安もなさそうによく寝ている。  透は光希のことをよく知らない。人から拒絶されたことがあるらしい。何かしらの不安を抱えているらしい。 「俺と寝て、不安なんてどっかにぶっ飛んだなら、いいんだけどな……」  でも、それはきっと現実逃避であって、根本的な解決ではないのだろう。彼の不安を暴き立て、何の憂慮もない、現実逃避ではなくただ絡み合うだけの情事の時、彼はどんな顔をするのだろう。  そこまで考えて、透は自分の思考に驚いた。寝た相手に対しては基本、個人的な事情には何も触れないのがこの街の通例だ。今まで寝た誰に対しても、もっと知りたいとか、暴きたいなんて感情を、透は抱いたことがなかった。その感情を、何と名づけるのかも知らない。  それに、次はいつ会えるのか――そう考えたところで、透は思い出した。たしか、両親が商売の手を広げたいとかで、アルバイトを募集してたっけ。知り合いで乗り気な人がいたら紹介してほしいとも言われていた。  光希はどうだろう。卒業早々ここに来たくらいだ。それなりに……というか、かなりエロいことが好きなのだろう。誘っても、嫌がられはしない気がした。

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