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第34話

 本当は、透の中の自分は、綺麗なままでいてほしかった。  エロいことが大好きな童貞ではなく、清楚で優秀な同級生でいたかった。  現世の光希は、前世の自分がなりたかった理想の人間。だから、前世の自分と繋がる要素を、誰にも知られたくなかった。  今までは、それなりに上手くやってきたと思う。常に笑顔で、お願いは聞けるだけ聞いて、誰と向き合っていても、理想の、優秀な自分でいられたはずだ。  人当たりが良いから友達も多くできて、彼らに自分の趣味が知られることもなくて……。 (あれ……?)  何か一瞬、嫌なことに気づきかけてしまった。光希は、誰にも自分の趣味を知られていない。それと同時に、今まで自分の周囲にいた彼らの趣味も、あまり知らない。  休日に誰かと遊びに行ったこともない。たまに誘われることがあっても、何かと理由をつけて断っていた気がする。深く自分を知られて、がっかりされるのが怖いから。  もしかして、上手くやれていると思い込んでいるだけで、本当は違うんじゃないか。  自分は、前世と何も成長していないんじゃないか。  嫌な考えが頭の隅をかすめた時、メッセージの着信を知らせる音が鳴った。薄暗い考えの中にピコンと割って入ってきた音が、光希の思考を逸らせてくれた。  差し出し人は、西田透。  現実味がなくて忘れていたけれど、そういえば、別れ際に透と連絡した気がする。何か、連絡したいことがあるとかないとか――。  受信していたメッセージを開く。 『帰り際に話してたこと、親に聞いてみた。ぜひ新規事業のモニターになってほしいらしい。面白そうだけど、やってみるか? 軽いバイト代は出るらしい』

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