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第35話

 新規事業というのは、小さな戸建て一部屋を借りて行うらしい、ということしか教えてもらえなかった。  詳細は、「体験してからのお楽しみ」なのだそうだ。謝礼もそこそこ出るらしい。  趣味の玩具集めおよびひとり遊びのためにも、バイトはしたいと思っていたので、ある意味渡りに船だろうか。  同窓会で再会する前にもう一度会えば、同窓会で気まずくなることもなさそうだし。  E地区に着くと、透は既に改札口の前にいた。 「迎えにきてくれたんだ」 「放っておくと、エロい雰囲気に夢中で道草食ってそうだし」 「いくら何でも、そこまで節操なしじゃないって」 「知ってる。優秀な生徒会長だった」  何だ、透なりの冗談か……と隣同士で歩いていると、右手が振れた。何度か指を絡ませた後、ぎゅっと握られる。 「な、なに!?」 「優秀だけど、危なっかしいところがあるのも本当だろ。こうしておけば、ふらふらどっかへ行くこともないだろうし」  そのまま、手を引っ張るように目的地へ歩いていく。分かりづらいけれど、きっと透なりに、光希のことを慮っているのだ。改札口で待っていたのだって、心配して迎えにきてくれたことには変わりない。 「……そういえば、僕、休日に家族以外と出かけるのって、初めてだ」 「意外だな。いつも人に囲まれてるのに」 「だよね。僕も最近気づいたんだけど、休日は勉強するか本読んでるかで……」 「あー、あとは趣味のアレか」 「違うよ! いや、違わないけど……親がいない時にしかできないし……」  話す内容が他愛なくても、彼は律儀に付き合ってくれるようだ。まあ、道中沈黙よりはマシだからかもしれないけど。それでも、想像以上に気まずくならずにほっとした。

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