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第36話

「初めてのお出かけがE地区でいいのかよ」 「いいんだよ。僕にとっては。ほら、休日に趣味を楽しむっていう点では、友人同士のお出かけって言えなくもないだろ」 「ふーん。友人、ねぇ……」  上手くやっているように見えて、現世ですら友達がいないのかもしれない。  そんな考えが頭をよぎってしまったから、光希はどさくさに紛れて透に探りを入れてみた。  けれど、反応は芳しくない。これは、友達と思っているのは自分だけで、向こうはそう思っていないというパターンだろうか。  それでも、気にかけてもらえる程度には、距離が近くなったのだと思いたい。  透の携帯に入っている数々の連絡先には、女性のものも多いだろう。  それなのに、その中から光希を探して、新規事業のモニターに声をかけてくれた。メッセージをくれた。  前世では、光希を気にして連絡をくれる存在など、家族以外いなかった。家族ですら、「仕事が忙しいから」という理由で連絡を無視し続けていたら、誰からも着信はなくなった。  だから、透から連絡をもらった時、光希に訪れた感情は、気まずいよりも嬉しさが先だった。

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