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第40話
つまり、スイッチを入れただけでは、ただの鏡張りの部屋なのだ。外からは見えないからという理由で恋人をこの部屋に連れ込み、鏡に映る痴態を楽しむ。快楽に堪えきれずに声を出してしまえば、部屋の壁はガラス張りに変わり、外でヤっているのとほぼ変わらなくなる。
「なんてレベルの高い……」
「でも、俺ら、鏡部屋でヤるの、向いてるって思うよ」
「なんで!?」
初心者にそんな高レベルを紹介されると思わなかった。
「だって、光希、自分の顔好きだろ」
「それ、は……」
じっと見つめられると目を逸らせない。この顔になってから、ようやく他人を見つめ返せるようになった。悪意をもって見られることがないからだ。
「嫌い、ではない……かな……」
そんな今の自分の姿も、正直言って理想そのものだった。
前世の高野光希は、目つきが悪くて陰鬱としていて、お前の顔を見ると気分が悪くなるとか言われて、死神とかいうあだ名がつけられることさえあった。だから、周りを明るくするような華やかな顔立ちに憧れた。
AVにハマってからはゲイビもいくつか見たものの、それらすべてが、繊細な王子様系がどろどろに犯され、快楽によって理性を飛ばしてしまうものばかりだった。
きっと、前から自分は望んでいたんだろう。あんな風になりたい……あんな風にされたい、と。
「だったら、誰かに見られながらするのも好きなんじゃねぇかなって」
「……謎の分析をどうもありがとう」
自分の性癖はとりあえず置いてほしい。その前にまず必要なのは度胸だ。セックスはしている本人たちが気持ちいいのはともかく、はたから見たら恥ずかしくて滑稽なもので、それを野外で、そして立地的におそらく人前でというのは、度胸だっているだろう。
「だから、いきなり公衆の面前はちょっと……」
「わかった」
そんな言葉とは裏腹に、気づけば押し倒されていた。
「な、なんで……?」
「光希は責任感あるから、引き受けたモニターを途中で放り出したりしないだろ」
「あ……」
そういえば。謝礼も出るというのだから、こなさないわけにはいかない。
となると、答えはひとつしかなかった。
「声出さないように頑張れよ」
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