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第46話
「…………すごかった」
「それはどうも」
何が何だか分からないまま、数回戦をこなした後、今では壁もただの鏡張りに戻っている。
透は本当にいたれりつくせりで光希の身体をぬぐったり、部屋を掃除したりと忙しい。片づけながら、「ウェットティッシュもう少し欲しいな……ゴムも」などとぼそっと呟いたりするのでいたたまれない。ウェットティッシュはともかく、ゴムは理性の歯止めが効かず互いに盛り上がりすぎてしまった結果だから、今回が例外なのだと思う。
それをあっけらかんと口に出せるほど、まだ自分は全てを曝け出せていないけど。
「……モニターのレポート、1万文字くらいでいい?」
「それは力作だ」
笑っているし、会話も成立している。けれど、彼の視線は、どうしても今は鏡になった壁に向けられていた。汚しはしたものの、透がすっかり掃除してくれたので、くもりひとつない。
「……もしかして、割れたりとか、した……?」
「あー、いや、そういうわけじゃないけど……」
知り合いに見られたような気がした、と透は言った。
「それは、気まずいね……」
E地区にいる彼の知り合いといえば――。
「も、元カノ、とか……?」
「違う」
その言葉に、光希はほっとすると同時に、胸の奥に得体のしれない靄が広がっていく感覚を覚えた。おかしいと思う。自分と彼は高校の同級生で、今日はモニターとしてセックスをしただけだ。しかもE地区での情事なのだから、独占欲や執念を抱くのはお門違いというものだろう。
「ここに来られるような年齢じゃないし、たぶん気のせいだ」
不安にさせて悪かったと、透は光希の頭を撫でる。あまりにも浮かない顔をしていたから、彼は気を遣ってくれたのだと思う。
浮かない顔をしていたのは、不安からというよりは嫉妬からなのだが――光希自身も、その感情に気づいていなかった。
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