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第48話
ある程度ダンボールも片づけられ、一通り必要な家具が設置できた部屋でごろごろしていると、早速透から連絡があった。
『昨日送ってもらったの、親父に好評だった』
『なら良かった』
『マットプレイの感想レポなのに、何故かローションの味にまで言及し出すところが真面目な優等生タイプって感じで、初恋だった委員長がスケベになったところを妄想して読んでたら興奮したって』
『……それ、喜んでいいのかな』
彼とは、軽口の混ざった業務連絡を一通りした後に、なんてことない話をすることもある。
『そういえば、あれ見た。光希がオススメしてた映画』
『本当? かなりマイナーだし、DVD化もされてないから、もう観られる場所なんてないと思ってたのに』
『E地区の小さなシアターでやってるよ。客はほぼ盛ってたけど』
『さすがだね。それで、感想は?』
『高尚すぎてよく分からなかった。光希はよく理解できるな』
『僕も何にも分かってないよ。ただ中盤のラブシーンが好き』
『あのやたらエロいやつな』
『高尚さを全面に出してるから、あの映画を好きだって言っても変な目で見られないから良いんだよね。ちょっとマニアックだねって言われるくらいで』
『光希はブレないな』
静かな部屋に響く小さなタップ音は、あまりメッセージのやりとりをしない光希にとって、かなり新鮮なメロディだった。
それから、変なスタンプとか、路地裏で見つけた猫のブレた写真(どうやら透は意外にも写真を撮るのが下手らしい)を送りあって、最後は「おやすみ」というメッセージで一日が終わる。
透は光希の会話に呆れることもしなければ、途中で疎ましく思うこともないのだろう。意外にも会話のラリーは多く続いた。だから、彼とメッセージを送りあうと、今までの自分は本当に人付き合いをしてこなかったのだと考えてしまう。考えて、少しだけ落ち込んで、でも今、彼と仲良くなれた状況に心が弾む。
『おやすみ』のメッセージを送った後に、もう一度着信音が響いた。何か伝え忘れたことでもあったんだろうか。差出人を見て驚いた。透や家族以外から、それも個人的な内容のメッセージをもらったのは初めてだったからだ。
差出人は、生徒会の後輩で、自分を慕ってくれていた保阪慎司だった。
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