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第50話
慎司の家から光希の住むアパートまで、詳しくは知らないが、いくつか電車を乗り継ぐ必要はあるらしい。手間も時間もかかるだろうに、彼は約束のきっかり5分前に、光希を訪ねてきた。
「これ、お邪魔させてもらうので、お土産です」
ドアを開けると、いきなり紙袋を差し出された。中身は、駅前のスイーツショップで人気のプリン。カラメルは苦めで、とろけるタイプだ。
「前に先輩が好きだって言ってたので」
かなり前、雑談で話したに過ぎないのに、しっかり覚えていて、光希のことを考えて選んでくれた。相変わらず律儀で真面目な性格にほっとするし、嬉しくもなる。
「せっかくだから、二人で食べようか」
スプーンと、一応皿も。それから紅茶も淹れて、彼が座っているテーブルに持っていく。
「それで、相談って?」
六畳間の真ん中に、テーブルを挟んで二人で座る。手土産のプリンを目の前に置いても、いただきますともうんともすんとも言わなかった。慎司は真面目だが、いつも深刻な顔をしているわけではないのに、何か彼の心に引っかかっているのだろう。
相談とは何なのか、そう促しても慎司は何も話さない。普段ならここでしばらく待つし、それが聞き上手ととられることもあった。でも実際は、事なかれ主義なだけだ。
「生徒会の新メンバーについてなら、僕はちゃんと信頼できる人を選んだつもりだよ。実際、引き継ぎの時もかなりフォローしてもらったし」
深刻な事態なら、先輩として、恐れずに踏み込むべきだ。彼は真面目で、はっきりとした性格だから、嫌なことは嫌だと言ってくれる。けれどそれは光希を嫌っていることとイコールではない。まだ自分の会話力に自信を持てるわけではないが、逃げを打つのはやめようと思った。踏み込んだら、案外面白い世界が待っているというのは、光希が最近学んだばかりのことだ。
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