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第52話

 いっそのこと、はっきり言ってしまった方が早いかもしれない。慎司は人のプライベートをあちこちに吹聴するタイプではないし、もしそうだったらE地区で見られた時点で、噂は広まっていただろう。  なのに何故言えないのか。理由は考えるまでもなく簡単だ。  頑張って築いてきた品行方正のイメージが崩れてしまうことを、彼に軽蔑されてしまうことを、光希は恥じている。透にありもしない脅迫容疑がかかっているというのに、それでもなお光希は自分を曝け出そうとせずに保身に走る。前世の悪い癖が、こちらでも表れている。 「脅されてるなら、何か、僕に力になれること――」  はありませんか。きっと慎司はそう続けたかったに違いない。それを遮ったのは、部屋の隅に、あたかも「引っ越しして日が浅いのでまだ片づけられていません」という顔で置かれているダンボール。  どうしてそんなピンポイントに、テーブルからこちらに回り込んでくる途中で端にあるダンボールを蹴飛ばすのだろう。慎司の小指にも、自分の心臓にもクリティカルヒットした。  だって、蹴られた衝撃で蓋が開き、転がりだしてきたのだ。せっせと買い漁ったアレが。 「だ、大丈夫、かな……?」  むしろ自分で自分に大丈夫かと訊きたい。僕は大丈夫だろうか。周りに転がっているのは、ド派手なピンクのローターと、サイズがやや大きめなアナルプラグ。ディルドは蹴った弾みでスイッチが入ったのか、ウィンウィンと動いていて、沈黙の中で唯一音を立てている。とてつもなくシュールだった。

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