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第53話

「し、信じられない……」  ですよね。 「こんなの送りつけてくるなんて、とんだ嫌がらせじゃないですか!」 「…………は?」  慎司がたった今蹴っ飛ばしたダンボールは、引っ越しの荷物を片付けた後に畳み忘れていた小さなもので。なのに、彼はどうやら、散らばった玩具たちがこのダンボールで透から送られてきたものと勘違いしているらしい。  勘違いや思い込みを否定し、納得してもらうには、結構な労力が必要になる。ますます自分の趣味だとは言いづらくなってきた。 「あの時だって、人前であんな……あんなことをさせられて! 大丈夫ですか!? 写真とか撮られませんでしたか!?」 「ちょ、ちょっと待って!」 「待てません! 許せないです! 」  慎司は感極まった様子で、光希の両手をぎゅっと握りしめてくる。文系なのに、意外と力が強いんだななんて考えていたら、顔もぐいっと近づけてきた。ちょっと涙ぐんでない? 「先輩は、みんなの先輩なのに……!」  でも、残念ながら、残酷だけど、実は先輩がその玩具の持ち主なんだよ。今目に見えているものと真実は違う。本当に近い光希を知っているのは、透だけだ。  そう考えると、彼と透の差異にばかり気づいてしまう。透の手はもっと大きかった。指先の熱は意外と冷たいけど、肌をすべる内にどんどん温もりを持っていく。見つめる眼差しひとつでさえ、透と目の前の彼は違う。  透ではない手は振りほどきたい。でも力では敵わない。こっちの方が涙ぐみたい状況じゃないかと思っていると、来客を告げるチャイムが鳴った。

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