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第54話
「ちょっと早いけど来たぞ……って、鍵開いてんじゃん」
時計を見ると、たしかに時間は早い。そして、光希は透に、午前中にも来客があるとは伝えていなかった。
「宅配便のお兄ちゃんに押し倒されて、みたいなプレイも好きかもしれないけど、さすがに鍵かけてないのは不用心だと思――」
透の目が、慎司を捕捉してからの行動は早かった。
「わっ」
思いっきり間に割って入られる。両手で距離を取らされた後、掴まれていた手が勢いよく剥がされた。漫画だったら、べりっとかいう効果音が入るところだ。
「何くっついてんだよ」
なんでこっちが睨まれてるんだろう。とはいえ、午前中にも約束があると伝えていなかった自分にも落ち度がある。
「僕は、相談を受けてて……」
いや、これは相談だったのか? 途中からは、尋問のような雰囲気だった。
「そんなん、体よくこの部屋に来る名目だろ。気をつけろよ」
透の一言に、ひっぺがされて少し距離が開いた慎司が噛みつく。
「それはこっちの台詞ですよ!」
そのまま、手近にあったピンク色のド派手な玩具を手に取った。
「先輩にこんなもの使って、一体どういうつもりなんですか!?」
そんなの堂々と持つな。見せるな。そう言いたいが、ちゃんとベッドの下、奥深くにしまい込まず、ダンボールを密封しなかったのは自分だ。
「……なんで、そのピンクのローターと俺が繋がるんだ?」
「アンタが嫌がらせで送ったもんだからでしょう!?」
それから、捲し立てるように慎司の言葉は続く。E地区の特殊な鏡張りの部屋を知っていること。その中で、二人がしていたことも見てしまったこと。
「それで心配になって部屋に来たんです! そしたら出て来たのがこれですよ!? 本当にいい加減にしてくださいよ!」
「だから、なんでそれを送りつけたのが俺って話になってんの?」
「先輩にこんなもん送るの、アンタしかいないでしょう!?」
「そうでもないけどな」
透は濡れ衣を着せられて苛つくでもなく、むしろあしらうように適当な相槌を打っているだけのように見えた。
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