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第55話
「この際だから言わせてもらいます! 先輩を汚さないでください!」
傍から見ると、まるでギャンギャン吠える子犬みたいだな、なんて、この時までは微笑ましいことを考えていた。
「汚してねぇ。っていうか、その先輩が自分で買ったとか考えないわけ?」
急に矛先が自分に向く。いや、急ではないのか。自分の話なのに、何も話していない状況がおかしいのだ。かといって、「はい全部僕のお気に入りの玩具です」なんて言えるほどの度胸はない。いっそ透が全部ばらしてくれ。いや、ばらさないで済むならその方が……と打算に次ぐ打算が頭の中を占めていく。
「先輩がこんな玩具使うわけないだろ!」
自分の打算的な考えは置いといて、まずはこの言い合いを止める方が先じゃないだろうか。そのためには、慎司に落ち着いてもらわないと。でもどうやって……。考えているうちに、無防備だった手をぐいっと引かれ、気づけば光希は透の腕の中にすっぽりとおさまっていた。
「そんなこと、なんで断言できんの?」
耳元で、はっきりと彼の声が聞こえる。
「なんでって……ずっと、生徒会で一緒だったからで……」
「そこで見せてた顔が全部ってはずないだろ。いつも優しいだけの聖母なんてこの世界にはいないんだからさ」
「い、いるじゃないですか! 今、アンタの腕の中に!」
「へぇ、光希が聖母ねえ……」
面白そうに透が笑う。
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