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第58話

「う、嘘じゃないから……」 「じゃあ証明してみせてくださいよ!」  しょうめい、って何すればいいんだっけ。 「本当に付き合ってるなら、お互いのどこが好きかくらい言えるでしょう!」 「目の前でイチャついてみせろじゃなくて残念だな」 「透はもう余計なこと言わないで!」  余計なこと、というのが何を指すか、光希自身も分かっていなかったけれど、透はしばらく口を噤んだ。しばらくといっても10秒ほどで、考え込んでから思わせぶりに口を開き―― 「面白いところが好きだな。清廉潔白な王子様かと思ったら、意外と抜けてるところとか」 「それ、褒めてるのか……?」 「褒めてる褒めてる」  なだめるように頭を撫でられる。 「俺、もともと放っておけないタイプが好きなんだよ。甘えるのが下手で、ひとりで抱え込みがちな奴。抱え込んで、不安定になって、ちょろ……流されやすくなってると、もうたまらなくなる」 「ちょっと」  今「ちょろい」とか言いそうになってなかったか。 「たまらなくなって、全部暴きたくなるんだよ」  最後の言葉だけは、慎司にも聞こえないよう耳元で囁かれていた。頬が熱い。きっと真っ赤なんだろうなと自分でも思うくらいには。  だって、無難に生きようとしていた自分に、暴かれようと手を出してくる人がいるなんて思いもしなかった。光希の初めては、全て透が掻っ攫っていく。 「ほら、光希も」  次はそっちの番だとばかりに、二人がこちらを見た。しかも、透は楽しそうに要求してくる。 「……むり」 「へぇ、なんで?」  そっちこそ。なんでそんなに嬉しそうにしてるんだ。 「だって……は、恥ずかしい……から……っ」  震える声で告げると、みしりと何かが圧迫される音がした。見ると、慎司が紅茶の入ったコップを握りしめている。そんなに強く握ったら割れるんじゃないだろうか。

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