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第62話
ベッドにちょこんと座って、光希は考える。そういえば、カメラとか触手とかマジックミラーもどきとか、出だしが異色すぎたせいで、普通のセックスというものをしたことがなかったな、と。そもそも、今さら普通に戻れるだろうか、と。
そんなことを考えている間に、透がカーテンを閉めていた。まだ昼だから、明かりはもともとつけていない。カーテンで陽光が遮られると、薄暗いけれど互いの顔はしっかり見える空間ができあがる。ちょっとひそひそ話をしたくなるような雰囲気だった。
「緊張しすぎだろ。アロマとか音楽とか使うか?」
「あ、いらないです。そもそもないです」
「緊張しすぎて敬語になってるし」
透も隣に座ってきた、と思ったら、すぐに押し倒された。ベッドのスプリングが軋む音にすら、少しひやひやしてしまう。隣に聞こえはしないだろうか。所在なさげにしていると、シーツを上まで引き上げられた。すっぽりと二人で包まれる形になる。
「じゃ、始めよっか」
「ん……」
シーツは音を漏れづらくするためだろうか。それだけじゃない気がした。二人だけの狭い空間。いつもより体温が近く、熱がこもる。吐息が耳をくすぐり、頷くことしかできなかった。
「ん、んっ……」
唇が何度も重なる。いつもの舌を絡ませる動きとは違う。官能を高めるのではなく、愛おしむように、ただ触れたいというように、啄むようなキスが続く。
「物足りない?」
「別に……」
透の声に感化されて、シーツの中の空気まですっかり甘ったるくなってしまったように感じた。そして、光希は甘い空気になると、恥ずかしいやら緊張するやらで、上手く言葉が出ず、素っ気ない反応しかできなかった。
そうだとも、違うとも言いたくない。けれど次に唇を合わせた時、思わず舌が彼の唇をつついて、口を開けるように促してしまう。それが合図だった。
「んん……ふ、ぅ……」
後頭部をがっちりと掴まれ、顔を背けることができなくなる。どのみち背けるつもりもなかったから、いいところにおさまったというべきか。
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