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第65話
「でもな、俺、まだ好きなところ言ってもらってないし」
「なに、それぇ……っ」
どうして、今さら数時間前に終わった話が出てくるのだろう。
「ほら、やっぱり言葉にされないとさ」
経験豊富な彼らしくないことも言う。違うか。経験豊富だからそう思うのかもしれない。さっきも放っておけないタイプが好みだとか言っていた。好みのタイプを言葉でくくれてしまう程度には、今まで相手がたくさんいたのだろう。そしてきっと、そのお相手は、ちゃんと言葉してきたんだ。こういうところが好き、たまらない、愛してる、とか。
過去に想いを馳せると、いつも胸の中に薄暗い灰色の靄が広がるような気がした。それ以上考えたくなくて、快感に占領されたくて、何も言わず、彼の性器を置くまでのみこむ。
「あっ、あぁっ……」
「ん、上手」
そう言って細める彼の目に、寂しさのようなものを感じたのは、ただの自惚れだろうか。
いつもはほとんど一気に奥まで入っていくから、ゆっくりと腰を下げることで、形がはっきり分かる。自分が、彼のそこをしっかりと咥えこんで離さないことも。
「ぜんぶ、入った……」
「ああ」
よくできましたと、彼は笑う。甘やかされているんだろうか。自分ばかり甘やかされるのは、よくない。対等な気がしないから。今、光希が透の優しさに報いたいなら、彼の願いを叶えればいい。
最初から、ずっと惹かれていた。眠る自分にブランケットをかけてくれた時も。笑顔を向けてくれた時も。光希の前世も現世も含め、全て暴いてくれようとした時も。
でも、それらすべてを言葉にしたら、きっと陳腐なものになってしまうだろう。彼が今まで付き合ってきた好みのタイプの人たちと同じになって、放っておけない奴の中に放り込まれてしまうかもしれない。それだけは嫌だった。だから、別のことをしようと思った。
「いくら僕がえっちなことに夢中でもさ……」
「うん?」
「好きじゃなきゃ……好きじゃなきゃ、一緒に、こんなとこ……しないっ……あ、あぁっ」
言っている途中なのに、告白しているのにも等しいのに、思いっきり突き上げられて言葉を遮られる。
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