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第67話

 光希は自分のことを、少なくとも前世の自分のことを、好きとか恋とか愛してるとか、甘い雰囲気とは無関係の場所にいる人間だと思っていた。  それが、生まれ変わった今となっては、だんだんと無関係だと思っていた場所に近づいているのかもしれない。そこが世界の中心だとしたら、その境界線くらいには。そこが絵画なのだとしたら、額縁に引っかかる程度には。 (やっぱり……あれ、好きだって言った方がよかったよね……)  好きだ、付き合ってくれ。恋人という関係に踏み出すためには必須の言葉だが、透とはそこをすっ飛ばしてしまった。独り占めしたいと、過去に付き合いがあった人と比べられるのが嫌だと言っておきながら、自分から恋人になるためのプロセスを踏み出すのを躊躇うのは、さすがに筋が通らない。 (あの時だって、たぶん、言わせたかったんだ……)  透が言っていた独り占めする方法というのは、光希に「付き合ってほしい」と言わせるためのものだったんじゃないだろうか。彼が帰り、ひとりきりになった部屋で、シーツを被ったまま光希は考える。  前世の自分は、他人が嫌いだった。疎ましく思われた分だけ自分も他人を疎ましく思うのだから、良い関係を築けなくても仕方ないと思っていた。  現世では、嫌いではないなと思い始めた。例外はいるけれど、基本、自分が優しくしていれば相手も優しくなった。そして自分に優しくしてくれる誰かがいなければ、平穏な学生生活は遅れなかっただろう。  でも――特別な意味での、恋人同士の好きは、やはりよく分からない。正確には、両想いという状態が、だ。  惹かれる、憧れる、恋い慕う、想いを寄せる。その気持ちは、透と出会って理解ができた。けれど両想いとか、付き合うとか、相手の気持ちが入ってくると、混乱して、途端によく分からなくなるのだ。今まで、まともに人間関係を築こうとしなかったことの報いだろうか。  それに、心の奥のどこかで、歯止めがかかっているような気もした。だって、今の高野光希は、前世の高野光希と比べて、どこか作り物めいている気もして――。  何か考えてはいけないことに触れそうになった。そして、思考を遮るかのように、着信音が鳴った。メッセージは2通。  後輩の慎司から、挽回する(何をだろう……)チャンスが欲しいという旨のもの。そして、今度は自分の部屋に遊びに来るといいという透からの誘いだった。「たまには部屋でのんびりするだけでもいいだろ」とのこと。  大丈夫、今の僕は、ちゃんと誰かと繋がれる。好きな人とも、きっと……。  不安も考え事も吹き飛ばすように、光希は被りを振った。両想いかは分からないけど、自分が彼に夢中になっているのは確かだ。

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