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第68話
透の住んでいる部屋は、E地区に着て最初に訪れた店舗の最上階だった。ビルごと西田家の所有物で、最上階が従業員のプライベトート空間になっているらしい。スタッフオンリーという立て看板が見えるエレベーターに乗り込み、お客様用のエレベーターには存在しないボタンを押す。
「案外普通だろ」
とんでもない。そもそも、店舗のワンフロア自体が広々としているのだから、とんでもなく広い3LDKだな、というのが正直な感想だった。
ただし、内装だけに限定していうのなら、案外普通というのは間違っていない。ブラウンを基調としたシックなリビングは、テレビに出てくるモデルルームのようだ。ぶっちゃけると、ラブホみたいな部屋も覚悟していた。
「あっ、透、お客さん!?」
リビングから女性が出てくる。目元が透に少し似ていた。年齢を考えるに姉……がいるという話は聞いたことはないが。
「いつもお世話になっています。透の母です~」
「ああ、お母さんなんですね。」
「まぁっ! お父さん、聞いた!? お母さんですって! 美人にお母さんって言われちゃった!」
「あ、すみません……お姉さんだと思ったので、つい……驚いてしまって……」
「若々しいって! お父さん、聞いた!?」
「なんでいちいち親父を呼ぶんだよ……」
「あら、嬉しいことはダーリンと共有してこそでしょ?」
「いい歳してダーリンとか……」
「何よ! そういうの、いつも言ってるでしょ!? 人間、年齢に関係あるのは体力くらいよ! 大人だから落ち着かなきゃなんて年齢で自分を縛ると、楽しさが減って損するわ!」
透の母親は、随分と賑やかな人だった。美人というよりは、元気で明るくて可愛い。
「透はともかく、そんなにはしゃいだら、お客さんがびっくりしてしまうだろう」
「だって、透が友達を連れて来たのなんて初めてでしょ!? ビックニュースよ!」
続いて出てきたのが、透の父親なのだろう。少し硬そうな髪質とか、背の高さとか。そっくりというほどでもないのに、纏う空気が透に似ている。
「透が連れて来たということは……君が、『ちんぽこどっこいしょ』くん?」
「えっと……いや、まあ……はい……」
『ちんぽこどっこいしょ』というのは、大人の玩具をレビューするにあたって作ったペンネームみたいなものだった。だって、デカマラ侍とか、淫乱珍獣娘とか、ふざけてんのかという名前で高度なレビューをする先陣には、前世から憧れてたし。
でも、一瞬で自分の名づけを後悔した。リアルで呼ばれることがあるなら、もっとちゃんと考えてつければよかった。
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