70 / 101

第70話

 結局、部屋を出て、透と二人並んで元来た道を歩く。 「悪かったな、なんかうるさくて」 「ううん。ちょっと面白かった。素敵な両親だね」  本心からそう言うと、透はバツが悪そうに顔を逸らした。照れているのかもしれない。 「たまに面倒な時もあるけど……好きにやらせてもらえてる分には、そうだな。良い親かも」  羨ましいな。自分の親を素直に褒められるなんて。  そんな心の声が顔に出てしまっていたのか、透が「光希の方は?」と訊いてくる。 「別に、答えたくないんだったら答えなくてもいいけど」 「そういうわけじゃないんだけど……良くも悪くも普通だから。一人暮らしを始めてからは会ってないし」  前世での両親も、現世での両親も、雰囲気は少し似ていた。だからだろうか、どちらにも、心から本音を打ち明けたことはなく、光希が成長していくにつれ、当たり障りのない話しかしなくなった。  前世の両親だって、最初は光希のことを心配していたのだ。学校にも上手く馴染めていない。家では本を読んでばかりいて、友達と外に出かける様子もない。大丈夫かと尋ねる親に対して、光希は「別に大丈夫」としか答えてこなかった。  友達がいないと言えば、二人は自分を憐れんだだろう。もしかしたら、しっかりきっちりとした性格だったから、自分からとけこんでいけと説教をしていたかもしれない。だから、詳しく訊かれたくなくて「大丈夫」と答え続けた。 「光希はたまに抜けてるけど表向きはしっかりしてるからな」  でも心配してるかもしれないから、たまには電話くらいしてやれば? と透が言う。 「心配……してるのかな。二人とも、弟の方が好きだと思うし……」 「へぇ、光希、弟がいるんだ」 「あ、うん」  嘘だ。弟がいたのは、前世の高野光希。現世では、自分は一人っ子だ。思い出している内に、うっかり記憶が混ざり口に出してしまった。  これ以上つっこまれたらどうしようと思っていたが、光希の口調から、何かを察してくれたのだろう。透は「俺はひとりっ子だからな」と言っただけだった。

ともだちにシェアしよう!