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第72話

「美味しかった!」  最初は、昼食にラーメンだった。こってりした味噌味にちぢれ麺がよく絡み、しかも炙りチャーシューが何枚も乗っていてボリューム満点だった。続いてのパンケーキは本当にふわふわで、しかも口に入れた途端、バターとともにしゅわしゅわと溶けていく。そして今、歩きながらチョコバナナクレープを平らげたところだった。 「本当に食べたかったんだな」 「うん。連れてきてくれてありがとう」  最初は、こんなに美味しかったのなら、もっと早く食べればよかったと思った。けれど、自分ひとりなら、どれだけ食べたいと思っていても、店には絶対足を運ばなかっただろう。美味しく食べられたのは、透と一緒だったからだ。  楽しさも嬉しさも美味しさもすべてがないまぜになって、調子に乗っていたことは否めない。お腹がいっぱいで、歩く足取りも少しゆっくりになった。  少し腹ごなししてから帰るか。そんな透の提案で、結局ショッピングモールで雑貨を覗いたり、ゲームセンターでぬいぐるみひとつに躍起になったりする。光希が初めてとったゆるキャラのぬいぐるみは、抱きしめるとふわふわしてくすぐったかった。 「楽しかった!」 「ならよかった。適当にふらついてもなんとかなるもんだな」  帰りの電車で揺られながら、とりとめのないことを話す。自分を誤魔化すために無い話題を無理矢理ひねり出しているのではなく、ただ、まだずっと透と話していたいから、どうでもいいことを話し続けた。 「友達と出かけるのって、こんなにも楽しいんだね」 「へー、友達?」 「えっ? あ……」  本当にそう思ってんの? そんな視線を透から向けられ、ようやく気づく。  そうか。デートって言ってもよかったのか。  でも、デートという言葉を口にするだけで、恥ずかしいような、くすぐったいような、いたたまれない気持ちになりそうだった。もっとすごいこともしているのに。 「ま、光希はでかけるより、ひとりでいるのが好きなタイプって言ってたもんな。今日、けっこう歩いたけど疲れてないか?」 「大丈夫だよ」  たしかに、自分はずっとひとりでいたいタイプだった。はずだった。今ではもう、本当にそうだったのか分からない。透と過ごした今日が、あまりにも楽しかったから。

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