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第75話
次の日は、何もしなかった。正確には、鏡の前から動けなかった。その次の日も。今度はずっと自分の顔を見ていた。不安だったからだ。
そんな日々を二週間ほど繰り返して分かったことがある。顔が元に戻る頻度は、4日に1度くらい。それから、時が流れていないことに気づいてから、身の回りから日付を示すものは消えた。部屋からカレンダーがなくなり、携帯も時間しか表示しなくなった。夢だと気づいた途端、世界がぼろぼろに崩れ始めたようだった。
二週間を過ぎたあたりから、光希は過ごした日数を数えるのをやめた。
透からの着信は、時々ある。光希が忙しいと思っているのだろう。内容は他愛のない程度の彼の近況報告だった。それから、最後には時間が空いたら連絡してほしいという一文を、律儀に添えて。
意外だった。第一印象から彼は大人で、どちらかというとドライなタイプだと思っていたから。経験豊富で、光希を面白がったのが今の関係だと思っていたから。こんなに気にかけてもらえているなんて知らなかった。
(でも、今の顔を見たら驚かれるよね……)
今日は前世の顔に戻る日。明日は、透のよく知る高野光希に戻るだろう。それでも、気になっていることがあった。日に日に、前世の顔に戻る時間が長くなっているような気がしたからだ。
最初は5分ごとの入れ替わりが1時間続いた。次の時は10分か2時間。最新の記録は、30分か3時間だ。やがて、常に前世の自分の顔になる――違うか。その頃にはもう夢すら終わりを告げる。
死んでいるのだから、その先にあるのは無だけだ。
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