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第77話
本当は、全てぶちまけてしまいたかった。
毎日上手く眠れないんだ。一度寝たら、二度と目が覚めないんじゃないかって考えると怖い。
電話越しでも、何の根拠もない無責任の励ましでもいい。彼の声で、安心させてほしかった。
それ以降、透からのメッセージは来なかった。
気にしないように、そして眠らないように、光希は別のことをずっと考えている。前世の高野光希のことだった。
酷い人生だったと思う。ありきたりで、つまらない、酷い生き様だった。終わり方も最悪だ。
死体を発見した人は色んな意味でショックを受けただろう。でも、自分は、本当にあのまま死んでも構わないと思っていたのだ。だから、ゴミを捨てるように、切って捨てるように、自分の人生を投げ出して、この世界で新しい高野光希として生まれ変わることにした。
自分から生きることを諦めたくせに、どうして、今の高野光希を手放すことが怖いんだろう。
順風満帆の人生だからか。
誰からも疎まれていないからだろうか。
でも、現世では本当の自分をさらしてこなかった。誰かのことを深く知ろうとも思わず、広く浅い付き合いばかりだった。
たった一人を除いて。
ああ、だから、僕は今の僕を簡単に切り捨てられないんだ。
眠らずに何度目かの夜を超えた時、光希はようやく気づけた。
僕は、透を失うことが怖いんだ、と。
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