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第78話

 外に出るのは、必要最低限の時だけだ。  変化が起きるのが怖いから、数週間分の食料を、まとめて買う。しかも食欲がわかないから、買ってきてもあまり食べない。最終的にはインスタント食品の山に埋もれる羽目になってしまった。  そんな不摂生を続けていたら、倒れるに決まってる。  まずは、どうしようもない喉の渇きがやってきた。我慢できなくて近くの自販機で水を買い、戻ってきて、玄関の扉を閉めたところで――限界が来た。  嫌だ。眠りたくない。怖い。  頑なに拒み続けても、身体はお構いなしとばかりに瞼をおろしにかかってくる。  助けてほしい。誰に。誰が助けてくれる?   朦朧とする意識の中で、握りしめていた携帯が鳴っていることに気づいた。着信は透から。  助けてほしいけど、心配はかけたくない。事情も訊かれたくない。そもそも助けを呼んだとして、彼に自分が高野光希だと気づいてもらえるかすら分からない。  光希は携帯を握りしめたまま、耐えきれず眠りに落ちた。いつの間に通話ボタンを押したのか、携帯の向こうから、透の声が聞こえてくることには、気づかないままだった。

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