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第79話
「おい、聞こえてるのか?」
なんだか、外がうるさい。でも光希は自分がどこにいるのかよく分からなかった。声が聞こえてるのは外。自分は、薄い膜を隔てたこちらにいるようだった。夢を見ているのだろうか。足元がふわふわしている。
「……開いてんな。前回といい、不用心すぎる……入るぞ」
膜は破れない。けれど、誰かの温もりが近くに来た感覚があった。
「うわ!?」
声が大きい。膜の中に自分がいたらおかしいのかよ、と光希は少し不貞腐れた気分になる。
「おい、大丈夫か!?」
頬に何かが触れる。自分はこの手を知っている。もう、何度も色んなところを触れてもらったから。
でも、その手は想像より少し冷たくて驚いた。きっと、膜の外側は寒いところなのだろう。
「……よし、生きてんな。ちょっと熱っぽいか……っていうか、隈がひでぇ。俺が知らない間に、どんな生活してたんだよ……」
頬の後、それは額に触れた。自分の額は何故か熱くなっていたので、今度はその冷たさが気持ちよかった。
「ベッドまで運ぶぞ。落ちるなよ」
自分の身体が、ふわりと浮かび上がる。不安定で、少し揺れている。怖いはずなのに、むしろ心地よかった。知っている手が支えてくれている。薄い膜を隔てた向こう側に、彼が……透がいる。
もう膜越しでもいいやと思い、抱きついてみた。最初は驚いたように強張った身体は、すぐに解れていく。抱き着いてもいいんだと思ったら、嬉しくなった。
なのに、少しふわふわしただけで、すぐに彼の身体は離れてしまった。
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