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第80話
「買ってくるのは、熱冷ましシートとスポドリ……風邪薬に……」
もう一度触れてほしくて、手を伸ばした。けれど、彼に直接は触れられなかった。この感触は、さらさらした布。これが膜なのだろうか? 分からないけれど、彼の離れる気配はなくなったので、ずっと掴んでいることにした。
「何? どうした?」
声が、とても優しい。ずっと聞いていたくなった。もっと話したかった。
「……いかないで」
「どこにも行かない。光希がそう言うなら」
お願いすると、自分の希望がそのまま通ったような答えが返ってくる。だからこれは夢なのだと、光希は思うことにした。結局、自分は力尽きて眠ってしまったのだ。実際は玄関で倒れているだけなのだろう。ずっと透に会いたいのに会えなかったのだから、夢の中でくらい、好きにしようと思った。
「好きだよ、とおる」
また、驚いたように掴んでいた布が揺れる。その後、何がどうなったのか、ちゃんと触れることができた。指と指を絡めるようにすると、触れる面積が多くなる。
「いつから好きになったんだ?」
「たぶん、さいしょから。堂々としてて、かっこよくて……あこがれだった」
でも、それだけじゃない。
「僕が、いねむりしてた時……ブランケットをかけてくれた。やさしかった」
彼は覚えてないかもしれないけど。
「人のことをよく見てるって思った……さびしさによりそえる人だって思った」
だから、好きになったんだよ。
「俺が好きなら……どうしたい?」
「はなれたくない」
喉が渇いているのか、上手く声が出ない。どうしても掠れてしまう。それでも、ちゃんと通じているなら良かった。
「ずっと、一緒にいたい」
そう言うと、繋いでいる手にぎゅっと力が籠もる。ふわりと彼の温もりに包まれて、抱きしめられているのだと、そう思った。
「……俺もだよ」
それから、彼はぽつぽつと話し出した。
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