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第81話
「こんなこと、光希には言うつもりはなかったけど、真剣に話してくれたからさ……俺は、中学の時から何人もと付き合ったし、E地区でヤることはヤってた」
付き合う相手は、皆、放っておけないような人ばかりだった。そして、付き合うからには、自分も相手のことを好きでいた。
なのに、どれだけ自分が愛を囁いても、全員が夜の街へと消えていく。君にはもっと良い人がいると言いながら、愛情を返されず寂しさを抱えた透を置いて、どこかに行ってしまう。
「でも、それでも構わなかったんだ……」
深追いをすることはなかった。ただ、遠くから幸せを祈れば、それで自分の好きという気持ちは報われると考えた。
「だけど、光希は違うんだよ……勝手に消えないでくれ。連絡を断とうとしないでくれ……」
透の声は、震えている。まるで泣いているみたいだと思った。
「俺だって、ずっと一緒にいたい……」
同じ気持ちだと、ふわふわした頭で光希は考える。両想いになれたのは、人生で初めてだ。なのに、「分かった。一緒にいよう」と言えないのは、どうしてだろう。どうしようもなく、悲しくなった。
「光希、寝たのか……?」
何か言うと泣いてしまいそうで、光希は何も言わなかった。すると、握っていたはずの手が離れていく。
「起きたら、もっと、ちゃんと言うよ……好きだ、付き合おうって」
耳元に彼の甘い声が降ってくる。その後には、遠ざかる足音。とうとう、自分たちは薄い膜に隔たれてしまったのだと思う。
幸せな夢だった。でも、彼の願いに応えられないことが心残りだった。
光希は真っ暗な微睡みの中に落ちていきながら、夢の終わりを感じていた。もう、魔法は解けてしまう。
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