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第82話
目が覚めた場所は、玄関じゃなかった。ベッドに運ばれ、ベッドサイドにはスポーツドリンクやらゼリーやら、お見舞いの品が、袋ごと置かれていた。
誰かが自分の部屋にやって来た。見ていた夢のことを考えたら、来訪者は一人しか思い当たらない。
ふらつく足取りで洗面所へ向かう。その顔は、前世の高野光希のまま。むしろ、少し寝て頭はすっきりしたといえ、まだ本調子ではなく、肌もボロボロ。隈だって少し薄くなった程度だった。
彼が、この顔を見ていなければいい。普通に見舞いの品を置いていったのだから、きっと、あの時の自分は、透の知っている自分のままなのだろう。そこまで推測できたところで、ようやくほっとして、その場にずるずると座り込んだ。
でも……。
放心した状態で、夢の内容を思い出してみる。鮮明な映像は頭の中に残っていない。嬉しいような、少し悲しいような夢だった。
透は、自分から連絡を断たないでくれと、縋りつくように懇願した。
彼の想いは無下にしたくない。そんなことをしたら、光希は今以上に自分を嫌いになってしまうだろう。
電話には出る。メッセージのやり取りもする。だけど対面で会うつもりはない。彼が許してくれるのならそうするつもりだった。たとえ自分がそれで満足できなくても。
メッセージで、しばらく会えない旨を伝えようとする。震える指に力を込める。
忙しいから、しばらく会えない。
この一文を打つだけで、何分も時間をかけた。しばらくってどのくらいと訊かれても、分からない見当もつかないで返すつもりだった。
あとは送信ボタンを押すだけ――の時に、部屋の呼び鈴が鳴る。宅急便かと思ったが、ドアスコープを覗くと、たった今メッセージを送ろうとしていた相手が扉の向こうに立っていた。
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