ある日、透は後輩の慎司と一緒に、アパートの前にいた。二人で何か言い合っている様子だった。 　慎司が透に噛みつき、透は呆れたように流す。最後には、笑い合っていた。何の話をしているのかは分からない。分からないが、すごく楽しそうにしていると思った。 　それと同時に、そんな二人がお似合いだとも。 　今の自分が彼の隣にいても、とてもあんな風には笑えないだろう。釣り合わないと考えて、居心地が悪くなって、すぐに逃げ出してしまうかもしれない。なのに、慎司は彼の隣に堂々と並ぶことができるのだ。 　得体のしれない黒い感情が、自分の胸で渦巻いていると思った。そして、溜まりに溜まって渦巻くそれは、自分の胸をずきずきと突き刺してくる。 　苦しくて、歯を食いしばって、全身が軋むようで、一瞬、上手く息ができなかった。こんな感情を、光希は知らない。今まで味わったこともない。 　できないと、自分でもわかっているくせに。それなのに、どうしても彼の隣にいたいと考えている。そして、それができない自分に、無い夢を見せた天の采配とやらに恨み言を言いたくなる。。 　こんな夢を見なければ、誰かと一緒にいたいなんて、望むこともなかった。淡い初恋のような憧れがあったって、自分には分不相応だと諦めることもできた。 　しかし、今の光希は、透の隣にいる喜びを知っている。死ぬ直前にこんな欲張りになってしまって、どうしろというのだろう。