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第88話

「さ、寒そう……だったから……あ、あの、これ……」  彼に話しかけようとすると、声が震えた。言葉が詰まり、どうしてもおどおどしてしまう。すべて、前世の高野光希と同じ行動だった。  顔は見せない。俯いて、手も触れないようにと放り投げるようにして買ってきたばかりのカイロを渡す。  彼が受け取ったのを見て、そのまま立ち去ろうとした。しかし、光希が歩き出す前に、透が腕を掴んでくる。 「な、なに……」  驚き、顔面が蒼白になる光希に、透は嬉しそうに言葉をかけた。 「やっと、会えた」 「え……」 「やっぱ優しいんだよな。俺がずっとここにいれば、放っておけないだろうってことは分かってた」  違う。自分はそんな言葉が聞きたいわけじゃない。 「どうして、わかったの……」  今の自分は、彼の知っている自分とは似ても似つかないのに。 「あー……最初は、随分イメージが違うと思ったけど、声は同じだし、なんか優しくカイロとかくれるし……」  それに、と透は掴んでいた光希の袖をちょいちょいと引っ張る。 「あ……」  そこで、光希もようやく気づいた。 「不思議だよな。そのパーカーと眼鏡の光希が、もう随分と懐かしく思える」  実際には、一か月も経っていないだろう。  パーカーと、ジーンズと、眼鏡。それからくしゃくしゃの髪。それは初めてE地区に行った時と――初めて学校以外で透と出会った時と、同じだった。

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