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第89話
一度気づいたら、全部が線で繋がっていったのだという。
「まぁ、人が急に変わる不思議現象なんてあるんだって思ったけど」
あっけらかんと透はそう言った。そして、そんなこと俺は気にしないから、とも。
「だから……」
「だから、お前も堂々としてればいい?」
暗いアパートの前で、表情も見せないまま、光希は透の言葉を遮って先に言う。
「びっくりしたでしょ。最初は、みんなそう言うんだ」
かなり卑屈な言い回しになってしまったが、それでも俯いているから、透の表情もよく見えない。驚いているのか、引いているのか、何も思っていないのか。
「結局は、自分の考え方次第だって、そんなわけないのにね」
前世の光希の周りにだって、お節介な人は一定数いたのだ。あまり話さなくなる前の親。小学校の頃の教師。クラスに一人はいる委員長タイプ。
「勇気を持って話しかけろとか、自分が変わればきっとみんなからの態度も変わるとか、散々言われた」
けれど、大人たちは笑いながら、心の奥でこう思っている。それでも、この子に友だちができるのは難しいだろうなと。これまで培ってきた経験が膨れ上がり、偏見になっていることなど気づかずにそう考える。
「だから、ずっと思ってた。結局この人たちは、自分が僕を疎ましく思うのを、僕のせいにして安心したかったんだって。一回ね、親に言われたこともあるよ。お前はそんな性格だから駄目なんだって」
人を外見で判断しては駄目だから、内面で判断したように見せかけたいのだと思う。少なくとも、光希はそう思って生きてきた。
「たぶん、僕はずっと、世界中の人間に、僕のことを何も知らないくせにって思いながら生きてきた」
何も知らないくせに、「目つきが悪い」というだけで、一方的に使えない人間の判をおしてきた上司にも。ただ生まれ変わって外見が変わっただけでちやほやするようになってきた周りの人間にも。
「……俺にも、そう思ってたのか? 何も知らないくせにって」
「…………」
光希は答えない。答えたくない。しばらくの間沈黙が続き、先に口を開いたのは透だった。
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