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第90話

「……そうだな。周りの奴らは、何も知らないよ。勝手に怖がって離れてく。仲良くするのは無理だって、勝手に決めつけられたこともあった」  ふと光希が顔を上げる。透も自分と同じようなことがあったのかという驚きでもなく同調でもなく、ただ、どんな顔をして言っているのかが知りたかったからだ。目が合うと、透は懐かしむように微笑んでいた。 「でも、ひとりだけそうじゃなかった奴がいた。今もいる。俺の、目の前に」 「そんなの……僕は、ただ自分と重ねただけで……」  よくもまぁ、次から次へと卑屈な言い訳が湧いて出てくるものだと思った。でも、これも自分だった。何も取り繕わず、隠せない、パーカーとジーンズ姿の情けない自分だった。 「でも、俺が光希を気にし始めたのは、あの時からだよ。あの時から、今まで。全部を含めて俺の中の光希だから。もう意外と流されやすいのも危なっかしいのも面倒臭い性格してるのも知ってる。だから、今さら何かが変わったところで、急に疎ましく思うとか、ありえないだろ」  彼は引くでもなく嘆くでもなく、からっと笑った。 「ずっと疑問だったよ。楽しそうにしてても不安そうで。何か隠してる気配もあって。真面目そうに見えるのに、依存かっていうくらいエロいことが大好きで」 「…………最後の、いらない」  光希のツッコミで、張りつめていた場の空気が僅かに緩む。それが合図だった。向かい合って、目の前にいる透が、視線で促してくる。彼の想いを受け入れるか否か、あとはただ、光希の意志によるものだと。  彼が受け入れてくれたとしても、自分の本質は何も変わらない。卑屈で暗くてどうしようもない、生まれ変わっても変化のない自分だけど、彼だけは手放したくないと思ったのも、また自分だった。  おずおずと彼の前に手を伸ばす。今まで友達とは喧嘩なんてしたことなかった。仲直りの握手、ということで合っているのだろうかと不安になる。  透は、光希のそんな不安さえも吹き飛ばすように、手を取り、引っ張り、光希を抱きしめた。 「今なら、やっと、光希の全部を暴ける気がする」  耳元で、彼の心地よい声が聞こえる。

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