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第91話

 二人で部屋に戻って、気が抜けたのか、光希は透の胸でひとり泣きじゃくった。今の泣き顔を見られたくなくて、彼の胸にぎゅっと押しつける。透は涙や鼻水でぐしゃぐしゃになることも気にしていないようで、光希に回した手を離そうとしない。抱かれているというよりは、抱っこされているようだった。コアラになったみたいだとも思う。 「つまり……アレか? 光希は実は異世界人ですってことか」 「……厳密には違う。生まれも育ちもこの世界だし、その記憶もある。僕のいた世界風に言うと……異世界転生ってやつ」  そういえば、この世界には異世界転生小説というものはありはしたけれど、流行と言われるほどではなかった。書店にひっそり、ファンタジーノベルの棚に1.2冊あればいい。その程度だった。だからなのか、透もぴんと来ないような顔をしていた。 「信じられないような話でしょ」 「でも、納得はしてる」  実際、今の光希は、内面だけでなく外見も、前世と現世を行ったり来たりしているのだから。 「……僕はこの世界から消えて、なくなるのかもしれない」  覚えている前世の最期の記憶を手繰り寄せる。 「あの時は、本当に心臓が痛くて……文字通り、死ぬほど痛くて、最初は足掻こう、救急車を呼ばなきゃって思ったんだけど……土壇場で、いいやって思っちゃった。無様な最期だけど、終わらせられるのなら別にいいって」 「よくないだろ」  それは、最期が無様なことだろうか。それとも、自分で自分を見捨てたことだろうか。どちらかは分からない。どっちもな気がした。 「今同じことが起こったら、もうちょっと足掻いたかもしれないね」  光希は力なく笑う。この言葉を口にしてしまえば  本当に最期になってしまう気がして。でも言わなきゃ決して伝わらなくて。 「……透と、もっと……ずっと、一緒にいたかった……」  返ってきたのは、「俺も」という肯定。他には何も言わなかった。言ってもどうしようもないからだろうか。それとも話す時間すら惜しんで抱き合っていたいからだろうか。

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