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第93話

「この小説の主人公はね、人の無意識を旅するんだよ。人間はひとりひとり、独立しているように見えて、実は無意識下で繋がってるっていう説を採用した、ファンタジー小説」  人は無意識のうちに、人と似たようなことを考えている。かぐや姫に似た話は世界各国に残されているし、自分が考えて言おうとしていたことを、無関係のどこかの誰かが既に口にしているかもしれない。 「簡単に言えば、人間の考えていることは皆同じってやつだけど……それは、人の想いがどこかで重なる空間があるからじゃないかってところから、物語は始まってる」  そこまで話すと、透はふと真面目な顔になって言う。 「この世界も……もしかしたらそうなのかもな」  A地区とかE地区とか、人が欲望のままに世界を作り出し、思うままに住んでいる。彼らはみんな別の世界にいたけれど、不満が募り、この世界で夢のような時間を生きている。  好きなように生きているのだから、現実逃避なんて必要ない。だから、異世界転生のジャンルは流行らない。 「案外、俺も光希と同じ世界の人間だったのかもしれないし」 「そんな夢オチみたいな……」  でも、今幸福な妄想に浸るくらいなら許されるだろう。 「で、光希も俺も、何かの理由で死にかけたんだけど、どっちも生きてるんだよ。意識が戻ったら見舞いに行くからな」 「……そんなの、僕の方が早く回復するかもしれないし」 「いやー、それは体力的にどうだろうな」  でも、自分はまだ生きていて、目が覚めたら透がいるのだと考えたら、案外元の世界も悪くないんじゃないかと思えた。もちろん、彼も自分と同様、今と別の姿かたちかもしれないけれど……関係ない。透だと分かれば問題ない。彼も光希に対して、そう思ってくれているならいい。  夜が完全に明けた頃、光希は玄関先で透を見送った。 「もし、僕が消えても……元の世界で会えたならさ、今度は僕から、好きだって言わせてよ」 「それ、もう言ってるようなもんだろ」  二人で「またな」と「またね」を繰り返し、手を振り合って別れた。

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