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第94話
糸が切れたように眠りについて、次に目が覚めた時は、見慣れない天井を見上げていた。もう、どこに転生されようとも驚かないと思う。そう考えていたのに、いきなり扉が開く音で驚いた。
息を切らして立っていたのは、透ではなく――しっかり者の弟。彼がいるということは、光希は理想通りの世界ではなく、元いた「なんだかなぁ」の方に戻ってきたんだろう。
弟は、生存確認に来たらいきなり倒れていたので何事かと思った、せめて人に迷惑はかけるなと、ひと通り憎まれ口を叩く。
「あのさ……」
「何?」
つっけんどんな声音でも、話を聞こうとしてくれるあたり、優しいのだろう。
「僕、ちゃんとズボン履いてた?」
「は? 何それ」
彼から聞いたところによると、ズボンは履いてたようだが、大人の玩具は散らばったままだった。
「身内のそういうのとか絶対想像したくないし、身内以外が発見してたらもっとみっともないし、自分が死ぬ前は性欲くらい我慢してよ」
そもそも突発的な発作だったのでかなり無茶を言われていると思ったけれど、剣幕に押されて頷くしかなかった。
「……それに、心配する人だっているでしょ。俺はぜんっぜんしてないけど、実家に連絡入れた時、すごかったんだから。兄さんが倒れたから救急車で運んだって言っただけなのに、阿鼻叫喚でさ」
「え……」
その報告は意外だった。だって、父も母も放任主義で、特に光希とはここ数年、まともに話をすることもなくて、出来のいい弟にしか興味がないと思っていたから。
「そんなの、わかんないでしょ。人の態度なんて受け取り方ひとつで変わるし。気になるなら聞いてみればいいじゃん。聞いても教えてくれるか分かんないけど」
それだけを言い残し、数日分の着替えを置いて、大学生として多忙な青春を送っている弟は、病室から出ていった。
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