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第95話

 光希が倒れた原因は、過労だった。もっと言えば、仕事のしすぎ。  原因となった仕事は、予想以上にあっさりと辞めた。このまま留まっていても無駄だと、退院してわずかに軽くなった心のままに行動した結果だった。  ちなみに、辞める時にもちくちくとした嫌味は相変わらずだった。仕事をしていても疎まれ、辞めると言ったら嫌味を言われ、あの上司は光希に何をしてほしかったのだろう。  人の態度なんて受け取り方次第で変わると弟は言っていたけれど、現実ではどう受け取ってもマイナスにしか解釈できないことだってある。現実なんてこんなものだという諦めも、光希にはとうについている。  仕事を辞めて身も心も軽くなった。それでも、現実は相変わらずろくでもなく、なんだかなぁの日々を送っている。  転職活動は上手くいかないし、どれだけ手ごたえがあっても向こうの都合で落とされてしまう。不合格の理由は教えてもらえないが、やっぱり光希から発される暗いオーラと目つきの悪さが原因なのだろうと当たりがつくと落ち込んでしまうこともある。  それでも諦めないのは、転職活動中、一縷の望みをかけて色んな場所を巡れるからだ。  ある程度の貯金もあるし、顔を変えることも考えた。でも、透を見つけた時、彼にもすぐ自分を見つけてほしかった。  どこかですれ違うかもしれないからと、辺りをきょろきょろ見回しながら、光希はずっと街を歩いている。どこにいるのか分からないのだから、いっそこと貯金をはたいて世界一周を企ててみるのもいいかもしれない。

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