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第96話

 世界一周なんて考えてみても、結局のところ、転職活動中は、節約を強いられている。そして、歩き回ってへとへとになり、ベッドに倒れこむ日も少なくない。  そんなこんなで、光希はもうずっと、趣味のひとり遊びを封印している。  せめて気晴らしをと言っても、他に趣味もない。その結果、なぜかネットで新商品の玩具を見ることだけが、唯一の楽しみになっていた。 「あ、これいい……」  好きなメーカーの新作プラグが発売されていた。けれど、詳細な大きさや使用感についてのレビューはまだ書かれていない。後孔は繊細なので、重大な問題だ。  実物を見た方が良いかもしれない。  普段はオンライン通販で買うばかりで、自分でもそれでいいと満足していたのに、この時ばかりは、何故かそう考えてしまっていた。  もう夜も遅かったが、思い立ったが吉日とばかりにすぐ家を出た。大人の玩具以外にも、パーティーグッズやお菓子など、品ぞろえと低価格で殿堂入りを果たしている店へ行く。該当エリアにある目当ての商品はすぐに見つかった。  その玩具には、ピンクと水色という謎のカラーバリエーションがあった。どちらもシルバーがかってはいるものの、妙に懐かしく感じるラインナップ。  光希がピンクを掴もうとしたところで、誰かに手首を掴まれた。  商品を取ろうとして、間違えて掴んじゃったとか? それでも、その手が離されることもなく。  光希の手を掴んでいたのは、いつかのコンビニ店員だった。光希が酔っ払いに絡まれた時、呆れた顔で見ていた、大学生くらいの青年。  あの時の自分の情けなさを思い出すと、つい身構えてしまう。  しかし、かけられたのは、「久しぶり」でも「あの時の人ですか」でもない、思いもよらない言葉だった。 「……見つけた」

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