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第98話

高野光希が高野光希のままだったように、西田透も西田透のままだった。  落ち着ける場所で話そうと、光希は透を自室に招いた。もちろん、散らかっていたあれやこれや(趣味の玩具も含む)は全てベッドの下に詰め込む、という片づけをして。  その間、彼には部屋の外で待っていてもらったが、何を片付けていたのかは既にバレているんだろうなとも思う。  小さな丸テーブルを挟んで、向かい合って座る。  話を聞くと、彼はこの近くで一人暮らしをしている大学生らしい。近くにいても一度しか会わなかったのは、互いに入院していたこともある。しかしそれ以上に、彼が学費のために多くのバイトを詰め込んでおり多忙だったからだ。  光希の方が年上ということもあってか、最初は緊張したように、敬語でゆっくりと話していた。光希が気を遣わなくてもいいと言うと、次第に言葉も柔らかくなり、今では部屋の主よりも部屋でくつろぎ、馴染んでいるような気さえする。 「さっきからこっちを盗み見ているわりには、全然目が合わないよね」  お茶を飲みながらひと息吐いていた透が、思い出したように呟く 「せっかくだから、俺は目を合わせて、顔を見て話したい。ダメ?」  光希が彼の目を見ていないことは、とうにバレていたらしい。言い訳のしようもないが―― 「もしかして、別世界の俺の方がタイプで、今の俺は顔も見たくないくらいタイプじゃないとか……」 「違う! それはないよ! ただ……」 「ただ?」 「君が僕を見て、嫌そうな顔をしてたから……目を合わせない方がいいんだろうなって覆ったんだ……」 「は!?」  あまりにも素っ頓狂な声だった。 「それっていつ!?」  該当する日付を話す。会社帰り。コンビニで。まだ互いの名前も知らず、会ったとも言えなかった時の遭遇だった。 「違うって! 光希に絡んでいた酔っ払いに対して向けた目であって……っていうかそもそも睨んだ自覚もなかったし! どうしようって困ってはいたけど……」  不快に思わせたならごめんと彼に謝られ、余計に申し訳なくなった。  やっぱり、当時の光希は精神状態が普通じゃなかったのだろう。ただでさえ追い詰められている状況の中、被害妄想をしてまでさらに自分を追い込んだ。今の透の言葉だって、あの時に聞いていたら、嘘だと思ってまともに受け取らなかっただろう。  でも、今は信じられる。彼に嫌われていなかったと分かり、ほっとしている自分がいる。 「安心した?」  いつの間にか透が隣に来て、光希の顔を覗きこんでいる。  こくりと頷くと、「やっぱり可愛いところは変わらない」と聞いているこちらまで歯が浮くような言葉を言われた。会えない日が続きすぎて、彼は自分を美化しすぎているんじゃないだろうか。

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