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第99話
「というわけで……今度こそ、こっち見てよ」
見てと言われて、簡単にみられるものじゃない。
もともと、光希は人と目を合わせることが苦手だった。何か嫌なことを言われるんじゃないかと危惧して、なるべく人と話さないように、なるべく人と関わらないようにして生きてきた結果なのかもしれない。
異世界では平気だった。目が合い微笑むと、誰もが自分に笑い返してくれたから。
そして、今はといえば。
「……無理」
「なんで?」
「だって……恥ずかしい、から……」
透は、何かを期待するように、じっと自分を見てくるのだ。
目を伏せていたものの、頬に両手を添えられ、上を向かされた。それでも見つめるのが恥ずかしくて、ぎゅっと目を瞑る。すると、キスが唇に落ちてきた。
「なんで……」
「キス待ち顔なのかと思って」
それから、キスをしたままTシャツを捲られる。素肌に触れらただけなのに、身体がびくりと震えた。驚きなのか期待なのか、もしかしたら、両方かもしれない。
「待って……っ」
展開が早すぎる。
「僕達、もっとお互いのことを知ってからの方が……」
「そう? こうした方がより知り合えると思うけど」
どれだけ手が早いんだろう。でもその強引さは紛れもなく透のものだ。おまけに、向こうも押せば流されてくれそうなちょろさを、光希のものだと考えているのだろう。
「そうだ。思い出のプレイとかする?」
「……嫌です」
その後は、散々言い含められ、結局は誘導尋問のように、「するのなら普通の方が良い」と言質をとられてしまった。
ベッドに上がったところで、電気がついたままだったことに気づいて身体が強張る。消そうと提案したいが、逆に自意識過剰と思われてしまうかも……その結果、出てきた言葉が「見ないで」だった。
「あ、目隠しプレイとかしたい?」
「そうじゃなくて!」
とりとめのない会話を繰り返す。指先を絡めたり頭を撫でられたりしながら。夢の中のふわふわした感覚とは違う。彼の体温も、匂いも、はっきりとわかる。
そして、自分がわかるということは、彼にも分かっているということで。
「しゃ、シャワーだけ、浴びたい……」
「なんで?」
「だって、匂いが……」
恥を忍んで言ったのに、彼は「俺は構わないから」と手を離してくれそうになかった。
「じゃあ折衷案。これを使えばいいんじゃない?」
いつの間にか(おそらく、さっきガチガチに緊張していた時だ)、ベッドの下から引っ張り出されていたのは、以前趣味で買ったローションだった。粘度が高く、香り付き。
「触手ほどねばねばじゃないね」
「言わなくていい……っ!」
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