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ゆずレモン その2

 合コンの数合わせで駆り出される羽目になった(ゆずる)は、面倒臭いと思いながらも友達付き合いを大切にするために出席を承諾した。別に出会いを目的として行くわけではないし、うしろめたさを感じる必要もない。 「檸檬(れもん)さん、夕飯ごめん。適当に食って?」 「えー……本気で合コンなんか行くの」  玄関先で声を掛けたら、拗ねたような檸檬の声が返ってきた。譲の年上の恋人は普段からのんびりしていて、あまり嫉妬もしそうにない印象だったが、合コン出席を快く思っていないのだろうか。 「一人だけ美味しいもん食べに行くんだろ? ずるいなあ、ゆずは」 「え、そっち」 「僕もゆずの隣で飲んだり食べたりしたかった」  あまり食い気に走ることのない檸檬に意外そうな視線を向けた譲は、履きかけの靴を脱ぐと、ソファでクッションを抱いている男の傍に歩いてゆく。 「檸檬さん、今度また旨いもん作るから。今夜は悪いけど。冷蔵庫にいろいろ入ってるし」 「旨いもんて、たとえば?」 「檸檬さんが食いたいもん、リクエストくれたら」 「……そう」  檸檬は少し考えるように明後日の方を見てから、にこりと優しい笑顔になった。 「んじゃあ、ゆず。誰にもお持ち帰りされず、ちゃんと帰っておいで。約束だよ?」 「俺がお持ち帰りされるわけないじゃん? 今日の合コン、相手は女の子だよ」 「ゆずは女の子駄目じゃないでしょ」  わざとなのか本気なのか、どこか寂しそうに囁いた檸檬は、ソファから立ち上がると抱いていたクッションを置いて譲に腕を伸ばした。 「少しのお別れのハグ」 「……大げさ」  付き合って一年になるが、こういう行為自体に照れてしまう譲は、ひっこめられない檸檬の腕を少しぞんざいとも思える力で引いた。 「お別れなんて言うなよ、檸檬さん。ちょっと出かけるだけ」 「んじゃ、お出かけのハグ」 「いてて! 力強いよ」  背中に回された檸檬の腕は、結構強い力で譲を抱き締めてきた。本気で痛かったので思わず声が出てしまう。 「いってらっしゃい、ゆず。僕の『旨いもん』はゆずだよ。オフトゥンで待ってるからちゃんと帰っておいで」  檸檬は腕を解いてまたソファに腰を下ろした。  旨いもん認定されてしまった譲は、帰ってきたあとのことを考え、いろんな妄想が広がっていく。 「楽しみにしてるからね」  檸檬は別に嫉妬しているわけではないのだろうか? よくわからなかったが、とりあえず約束の時間もあるので突っ込んでは聞けなかった。  帰ってきたら、オフトゥンの中でじっくりと聞いてみよう。

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