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古傷*性描写
柔らかい毛皮の上に伏せる身体の上に、熱い体温を感じる。背中、腰、腿の裏、触れ合った場所すべてがじっとりと汗を掻いていて、けれどそれを不快とは思わない。溶け合う肌の感触は心地よく、ブラッドは恍惚とした吐息を漏らした。身体の奥に潜り込んだ熱杭が、濡れた場所をぐちゅりと掻き回す。
「っん、……あ、あ……」
腰の辺りにじわりと広がる快感。俯せで、広げた脚の間を上から緩慢な動作で突かれ、ゆっくりと追い詰められていくのは嫌いではなかった。ただ、自重と自分に覆い被さる男の体重で、毛皮と自身の硬い腹の間で押し潰されたペニスが辛くて仕方ない。もうすでにこの体勢で一度達していて、下肢を揺さぶられる度に身体の下から濡れた音が聞こえる。敏感な亀頭や裏筋が、精液を吸って湿った毛皮と擦れるのが、酷くもどかしい。
「腰が揺れている」
「……ん、……ッ」
クバルの低く掠れた声が、形のいい耳殻を擽る。いやらしい、と言われているようだった。実際、そう言いたいのかもしれない。ただ、彼の指摘で羞恥を燃え上がらせるほど、ブラッドはこの行為に不馴れな訳でなかった。興奮だけが高まっていく。
お前こそ、いやらしい声を出しやがって。熱い吐息を押し出しながら心中で文句を言ってやる。
彼との行為に恥じらいはない。お互いの体温を求め、求められる。素直に快感を追って、好きに動く。足りなければ足りないと言う。一晩中交わっていても、飽きることはない。
「クバ、ル……いきたい……」
湿った声で要求した。曖昧に穿つ腰へ、わずかに下肢を浮かせて尻肉を押しつけ、擦りつけた。もっと激しく突けと。ぬるま湯のような快楽を貪るのも好きだが、これでは焦れった過ぎる。肉環を故意に引き締めると、ブラッドの身体の横に突いた褐色の手が毛皮を強く握り、背後で息を詰める音がした。
「お前は……本当に」
「早く、しろ……」
急かすと、日に焼けた無防備な項に、生温く濡れた感触が這った。薄い皮膚を吸い上げ、柔らかく歯が立てられると、背筋がぞくぞくと震える。は、と息を吐いた次の瞬間、ブラッドは背筋をぴんと引き攣らせた。
ぱん、と濡れた肌と肌がぶつかる音とともに、硬い剛直が身体の奥を押し開く。
「ぁあア…っ! ぅ、あ……」
「はぁっ……」
ヘリオススへ来たばかりの頃の自分に、自らクバルを求めるようになると教えたら、反吐が出そうに顔を歪ませるだろうと想像する。支配し、自由を奪うためだけにブラッドを犯す男が、喉の渇きを覚えるほどの獣欲を向け、息切れするほどの情動を注いでくると、一体誰が想像する。
大きく張った亀頭が最奥を打つ。体重をかけながら捏ねるように腰を回されるとたまらず、訳がわからなくなるほどの快感が押し寄せて手足の先まで満たし、一段一段駆け上がっていく。
長いペニスが抜け出るのに合わせ、淫らな肉襞が惜しむように縋りつく。再び入ってきたものを柔らかく食み、浮き出た血管や先端の形まで感じ取ろうと吸いつく。
ぬぽ、ぬぽ、と下品な音の間隔が短くなっていく。身体の下で圧迫されたペニスが震え、熱い迸りが尿道を駆ける快感に、ブラッドは太い血管の浮いた左手で手元の毛皮をきつく握り締めた。ぎゅっと丸めた足先が攣りそうな感覚があった。
「う、ぅ、――っ!」
耳元で感じる上擦った呻き声とともに、腹の奥に熱いものが注がれる。クバルの震える腰がぐ、ぐ、と尻肉に押しつけられ、すべて出しきろうとする雄の本能を愛おしいと思う。絶頂後の心地よい浮遊感に浸りながら、ブラッドは最初より数段熱い肌の温もりを感じていた。
「はぁ……っ、は……」
「ブラッド……」
「ん……」
濡れた腹の下に熱い腕が潜り込んでくる。身体の向きを変えられて、後孔に萎えたペニスを咥えたまま横向きになった。蕾の隙間からとろとろと溢れ出る精液を気にせず、硬い筋肉の詰まった脚同士を絡ませ合う。
獣のような荒い呼吸を繰り返し、昂りが落ち着き始めると、右手の先がじんじん疼くような痛みを訴えていることに気づく。興奮が過ぎると、時折訪れるのだ。ある筈のない指が痛い。
「ブラッド」
口にしてもいないのにクバルは、ブラッドの腋の下から腕を回して大きな手で右手の先を包み込む。こういう時は、クバルも同じ感覚を共有している。深く裂かれた腹の傷が疼くのだ。
ふー、ふー、と項に感じる湿った息遣いが穏やかなものに変わる。おもむろに首を捻ると、乱れ額に張りついた黒髪もそのままに、神秘的な輝きを灯す赤色がじっと見つめてくる。唾液で濡れた顎をべろりと舐められ、そのまま唇に吸いつかれる。舌を伸ばし、ブラッドは厚く柔らかい感触を堪能する。
満ち足りた、穏やかな時間が流れていた。何者にも脅かされない、陶酔の夜だ。
「ヤミールは、どうだった」
舌が離れ、クバルの柔らかい吐息が唇の表面を撫でる。
「気になるなら自分で様子を見に行けよ」
「ヤミールは、俺に遠慮する」
「俺には気安いって?」
そうは言ってない、とクバルが囁く。どこか憮然とした声音を聞いてブラッドは笑った。ふたりで会話をする時は、いまだに共通語だ。濡れた下唇に噛みついてやる。
「お前には何でも話すだろう」
かつてのヘリオサに対する畏敬の念、そして引け目。たとえ今のクバルが一介の戦士だったとしても、ヤミールの中から容易に取り除けるものではないだろう。ヤミールの中のクバルは、二年が経った今も絶対的な王だ。本人がそれを否定し、新しいヘリオサであるヤミールを認めていたとしても。
「前の王が偉大すぎるのも考えものだ」
「俺は別に、偉大なんかじゃない」
「ああ、そうだよ。反抗的だった戦士も、お前の言葉は聞くもんな」
「それを気にしているのか?」
丸くなった赤色が、怪訝そうに見てくる。ブラッドは正面を向いて、右手の先を包み込む掌に、汗ばんで湿った左手を重ねた。
「お前と比べたって仕方ない。あの戦士だって、クバルに口答えしたら馬に繋がれて引き摺られると思ったんだろ」
「もうそんなことはしない」
至極真面目な声で否定するクバルがおかしくて、ブラッドはいまだ熱を持つ唇から薄く息を漏らした。
「ヤミールはよくやっている。前は……戦士に言い返すことなんてできなかった。今は、違う。王として振る舞っている」
「掟に反して決闘を申し込む者もいない」
アトレイアとの戦の終結後しばらく経過して、ヤミールはクバルたちと相談し、三年の間、ヘリオススでの私闘及び決闘を禁じた。これはダイハンが乾いた赤い大地に生きる部族との交渉をすべて終えるまでの限定的な掟で、必要な措置だった。
今最も優先すべきは、アトレイアと交わした盟約を順守することで、ダイハン族同士で揉めることではなかった。慎重に、かつ迅速に動かねばならない時に、身内でヘリオサを争うべきではない。この考えには多くの戦士たちが同意を示した。定められた三年の間だけは、同胞で争わず、ヘリオサの座を奪うこともしないと約束したのだ。
「三年が経った後も、今のままならいい」
「それは、ヤミール次第だろう」
ヘリオサとして申し分ないとブラッドは思う。時折、手を引いてやれば十分だ。
「あいつに足りないのは自信だ。自分は常に正しいって信じることができる傲慢さだ。お前にあってヤミールにないもの……」
「俺は傲慢だったか」
「じゃなきゃヘリオサなんて務まるかよ。お前は迷わないだろ。それにみなが、民がついてきた」
「いつも……自信があった訳じゃない」
「そうか?」
「そうだ」
右手の先の疼痛が鎮まっていることにブラッドは気づく。痺れの消えた皮膚の表面からじんわりと、いつもブラッドに安堵を与える温度が広がってくる。穏やかな吐息が項を撫で、低い声の振動が肩に伝わってくる。
「今は見守ってやろう」
「……ああ」
ブラッドはクバルの手の上に重ねた左手をやんわりと離した。もう寝ようという合図を送ったつもりだったが、乾いた唇が耳朶を擽る感触にブラッドは身を捩った。湿った吐息が耳の裏を撫でる。
「おい……」
「もう一度」
低い囁きの後に、繋がったままの下肢を押しつけられ、濡れた音がした。柔らかなままの性器は、勃起を取り戻すためにゆっくりと中を掻き回す。
「もう疲れた」
「お前なら、まだ大丈夫だろう」
ぐちゅ、ぐちゅ、と淫らな音を立てながら、腸壁に包まれたペニスは少しずつ大きさと硬さを戻していく。ずるりと腰を引かれ、くびれの張った亀頭が浅い場所を突く感覚に、ブラッドは背筋を震わせた。密着したままの背は、まだ汗が引いていない。
「んっ……強引な奴だ……」
「俺は、傲慢なんだろう」
低い囁きとともに緩やかな抽挿が始まる。少しずつ送り込まれる甘い感覚に嘆息し、ブラッドは「ほどほどにしろよ」と釘を差した。
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