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藤堂くんは、ソファに沈む俺の頭をなでながら言った。
「先に白状するとね、俺、こういうところ来たの初めてで。ていうか、セックス自体したことない。童貞」
「……おれも」
おれの答えを聞いて安心したのか、藤堂くんはちょっと眉根を寄せて顔で笑った。
「そっか、良かった。……いやなんか、思い切って来てみたものの、思ってた以上に本能的というか、ほんと無差別にヤるだけなんだなって思ったら、尻込みしちゃって。ついでに、あんなオジサン抱けないよとか思っちゃった」
「おれもそう。なんか場違いだし無理かなって」
「おんなじような子がいたから、思わず声かけちゃった」
そう言って藤堂くんは、覆い被さるように、おれの顔のすぐ横に片肘をついた。
「キスしていい? キスも初めて?」
こくっとうなずく。
「俺も。でもなんか、気が引けちゃうな。ふうは好きなひととファーストキスした方が良さそうなキャラに見える」
「そっ、そんなことないっ。別に、誰でも」
嘘。
さっき誘って来たひとじゃなくてよかったと、心底ほっとしている。
服の裾 をぎゅっと掴むと、藤堂くんはおれの目をじっと見つめたあと、顔を近づけてきた。
目をつむる。
やわらかいくちびるが当たった。
「ん……」
じわじわと顔が火照てってきて……キスに興奮したのかもしれないし、酔っているからかもしれないけれど。
藤堂くんは、ちゅっ、ちゅっと何度か口づけながら、おれのTシャツの中にするりと手を入れた。
驚いてびくっとしてしまう。
けれど、キスも、這 う手もやまない。
「……、ん」
「声可愛いね」
「……っ」
なし崩しにすっかり脱がされて、藤堂くんも裸になった。
軽く腹筋が割れた、均衡のとれた身体。
恥ずかしくも興奮してしまって、生唾を飲んだ。
「んー……初めてなんだもんね」
藤堂くんは考え込むようにしながら、指先でやわやわとおしりのあたりをまさぐってきた。
「こんな分別なくヤるような場だけど、やっぱり、したことないひとにいきなりするのは気が引ける。……かといって、丁寧に慣らしてていい雰囲気でもないんだけど」
半個室なので、カーテンの向こうの気配が分かる。
ヤるだけヤって、出ていく感じ。
どう考えても、おれたちだけが不慣れだった。
「抜きっこにしよっか」
「うん。ごめんね」
ほっとした。
同級生と、本番のセックスまではしなくて済みそうだからだ――ここまできてもなお、気づいていながら挿れられるということに、罪悪感があった。
藤堂くんの手が、そろっと、おれのものに触れる。
ブレスレットがキラリと光って、その手つきが艶めかしく見えた。
「ん、……っ」
「ふうも、触って」
藤堂くんの吐息が弾んでいる。
手を伸ばし、固くなったそれに手を触れると、あり得ないくらい興奮した。
「はぁ……、は、ん……、」
「気持ちいい?」
「ん、んぅ」
気持ちいいなんてもんじゃない。
いますぐにでもイッしまいそう。
「ん、……ん、ゆるめて、すぐ出ちゃう」
「まだイキたくない?」
こくこくとうなずくと、藤堂くんは上下するスピードを落とし、キスをしてきた。
腰が浮く。
上擦った声が漏れる。
余裕なく口を半開きにあけると、ぬるりと舌が入ってきた。
「ぁっ、はあ、……は、ゃぁ」
早すぎるけど、もう限界――
「だめ、んぁっ……、んッ……っ!…………、あ、ぁあ……ッ!」
大きく仰け反ると、藤堂くんは激しく手を上下し、おれはそのまま射精した。
完全に手を離してしまった俺に藤堂くんがのしかかってきて、そのままお腹に擦り付けるように腰を振ってくる。
「ぅぁ……っ、…………ッ!」
熱い液が、胸の辺りまで散る。
藤堂くんがイッたのだと気づくのに、2秒ほど。
「…………っ、」
放心状態から立ち直ると、お互いあっと言う間に達してしまったことに、ちょっと笑ってしまった。
「……ふ。童貞同士だった」
「あっけなかったね」
藤堂くんは優しくて、軽いキスを繰り返しながら、体を拭ってくれた。
「ふう。ここを出たら、一直線に外へ出た方がいいよ」
「……? なんで?」
「いまね、すっごい、とろけそうな顔してる。そんな顔でフロアをふらふらしてたら、無理やりされちゃうよ」
思わずばっと、両手で頬を挟む。
……どんな顔をしている?
恥ずかしくてうつむくと、藤堂くんは頭をなでながらおれの顔を覗き込んできた。
「一緒に出ようか」
うん、と言いかけて、ハッとした。
ダメだ。
一緒に帰ったら、家が同じ方向だとバレてしまう。
答えを飲み込み、しばらく考えたあと、藤堂くんの手をゆるく握った。
「トイレ寄るから、先帰っていいよ」
「でも」
「慣れないお酒飲んで頭に血がのぼったら、ちょっとクラッときちゃったみたい。ひとりで頭冷やしたい」
「……分かった」
個室の外へ出て、笑顔を作り、手を振る。
願わくば、きょうのことは全部忘れて、一生気づかないで欲しい。
俺も、藤堂くんがこんなに優しかったことなんて、もう忘れる。
フラフラとトイレに向かい、手を洗いながら、泣いた。
こんな形で簡単に好きになってしまって、おれはこれからずっと、卒業するまで片思いに苦しんで、ファーストキスを忘れられないまま生きていくのだろう。
別れ際、心底心配そうにしていた彼の顔を思い浮かべる。
真面目そうな藤堂くんがなぜこんなところにいたのかは分からないけれど、俺に向けたあの表情には多分偽りはなくて――
ゴシゴシと涙を拭い、リストバンドを引きちぎって、ゴミ箱に捨てた。
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