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2 止められなくて
本来なら何の接点もないおれたちが学校であいさつを交わすのは、不自然極まりない。
だから、基本的には1組には近寄らないようにするし、まれに廊下ですれ違っても、完全に他人のフリ。
平日は向こうが生徒会で結構忙しそうで、土日はおれがバイトだったりして、シフト調整できるまでの2週間ほどは、直接顔を合わせることはなかった。
夜に、1時間ほど電話するだけ。
それでもうれしくて仕方がなかった。
「きょう、月末までのシフト提出してきて、今週の日曜と来週の土曜の昼過ぎからが、予定空けられたよ」
『わざわざありがとう。うれしいな、会えるの。どこか行きたいところとかある?』
デート……の3文字が浮かぶと同時に、少し暗い考えも浮かんだ。
出かけ先で知り合いに会ったら嫌だな、とか。
カラオケとか個室なら心配ないだろうか?
もやもやと考えていると、藤堂くんが、遠慮がちに言った。
『あの……もし良ければ、うち来ない? 中目黒 から20分くらい歩くから、ちょっと来づらいかもだけど』
「えっ、いいの? 親とかは?」
『土日は大体いない。だから、外を出歩くよりは人目を気にしなくて済むかな、なんて……」
部屋でふたりきり。
不可抗力的に、あらぬ想像をしてしまう。
日曜日に行くと約束をして、電話を切ると、そのままぼふっとベッドに倒れた。
どうしよう、最後までセックスをするのだろうか。
ごろりと寝返りを打ち、引き出しのひとつをじっと見る。
親にバレないようにそういうグッズを隠している場所だ。
起き上がって引き出しを開け、カモフラージュの服を床に落として中身を見つめた。
普段ひとりでするときに使っているのは、前立腺を刺激するだけの、小さなおもちゃ。
一応バイブもあるけど、あんまり使い方が分かってなくて、大して気持ちよくもなれないから、しまいこんである。
ごくっと唾を飲んで、重みのあるバイブを手に取る。
それから、ローションと、コンドーム。
3つを持ってベッドに戻ると、そそくさとズボンを下ろした。
ローションを手に取り、まだ勃っていないペニスに塗りつける。
ちょっと擦ると、すぐに固くなった。
ローションを使ってしごくと気持ちよすぎてしまうため、普通じゃ満足できなくなる気がして、いつもは封印している。
けれどきょうは、手っ取り早く感度を上げる必要があった。
「…………、」
息を詰めながらしばらく擦り、ビンビンになったところで手を離した。
バイブにコンドームをはめ、ペロペロと舐めながら、ローションで濡らした指をお尻に挿入する。
ぐにぐにと入り口を広げ、中をこねる。
これは藤堂くんの指。
フェラをするように指示されて、舐めながら中をまさぐられていると思うと、めちゃくちゃ興奮する。
十分に拡がったので、バイブにローションを塗り、体を丸めてそのままつぷつぷとお尻に挿れた。
「…………っ、んぅ」
固いし、ちょっと痛い。
けど、少しでも慣らして中をやわらかくして、藤堂くんを受け入れられるようにしないと。
ゆっくりと出し入れする。
ぢゅぷぢゅぷとはしたない音がして、気持ちよくはないけれど、自分の状況に興奮する。
たまにペニスを上下すると、ぬるぬるにしておいたおかげで、すぐに気持ちよくなった。
その繰り返し。
「……、ん、…………ふぅ」
前立腺にぐりぐりと先端を押し付けると、腰が揺れた。
そのまま、バイブのスイッチをオンにする。
「んン、……っ、」
ぐりぐりと前立腺を刺激しながらペニスを擦ると、腰が跳ねた。
声にならない声で悶 える。
ズボズボとバイブを出し入れしながら、もしあの日セックスしていたら……という、ありもしない妄想にふける。
頭の中の藤堂くんは、暗い部屋で、極限までおれの脚を開かせて恥ずかしい格好にして、無理やり腰を沈めてきた。
おれは快楽に身を任せて、派手に喘 ぐ。
藤堂くんは、『エッチだね』とか『中もっと締めて』とかいやらしい発言をしながら、腰を支えて激しく攻めてくる。
「……っ、ん、…………っ、んぅ、…………ッ」
バイブをマックスにして、ぎゅーっと押し込んだ。
「……ッ!…………はぁっ、……!……っ、……ッ……!」
弾けるように熱を放った。
2度3度ゴリゴリと中を擦ってスポッと抜くと、その感触でもう一度軽くイッた。
肢体を投げ出し、荒い呼吸を整える。
呆然と天井を見つめながら、妄想を掻き消した。
あんな風に気遣ってくれた藤堂くんが、無理やりするわけない。
乱交パーティーなんて羽目を外せる場所ですら、慎み深く、初対面のおれを傷つけないようにしてくれた。
ついつい興奮に任せて過激な想像をしてしまったけれど、おれは藤堂くんの優しさを好きになったのだし、こうして冷静になってみれば、ゆっくり確かめ合うみたいなセックスがしたいなと思う。
いっぱい触れ合ったり、話しをして、もっともっと彼を好きになりたい。
あたたかな気持ちになりながら、心地よく重くなるまぶたを無理やり開けて、後始末をした。
日曜日に想いを馳 せながら。
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