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3日後の朝。
おれは、待ち合わせ場所の浅草駅にいた。
絶対に友達に会わずにデートする方法を考えた結果、高校生が最も行かなそうな人ごみに行くのが最適解ということになった。
そして藤堂くんが選んだのが、問屋 街のかっぱ橋。
何に使うか分からない調理器具やらリアルすぎる食品サンプルの店を見学して回ろうという、シュールな企画だ。
「ふみ!」
団体の観光客を避けながら、藤堂くんが笑顔で駆け寄ってくる。
目の前までやってくると、眉尻を下げておれの両手をちょんと握った。
「えっ、うわっ」
「会いたかった」
慌てるおれの様子は意に介さずといった感じで、指先の形をなぞってくる。
「み、見られてる……と思うんだけど」
「知り合いじゃなければ、別に」
見事な見られっぷり。
と言っても、男同士で手を繋いでいることに注目されているわけではなく、単純に、藤堂くんのルックスが良すぎた。
女性の友達同士と思しきひとたちが、露骨すぎるくらい藤堂くんに見惚 れながら、名残惜しそうに通り過ぎて行くのだ。
なんとなく人の流れに合わせて歩き出す。
藤堂くんは、横断歩道とか、立ち止まるひとを避けるときとか、何かにつけておれの背中や腰に触れて、体を引き寄せるようにした。
無意識のエスコートなのか、いだすら心のスキンシップなのかは分からないけれど、そんな些細 なことがうれしくて、おれは浮かれた。
食品サンプルの店で、藤堂くんは、しげしげと商品を眺めながら言った。
「俺、この中ならジェノベーゼパスタ食べたいなあ。ふみは?」
「いちごパフェ。つやつやでおいしそう」
「甘いの好き?」
「うん。3こ上の姉がいて、食生活影響されてる」
疲れたときには甘いもの……なんて女子みたいなことをしてしまう。
「たまんないな。可愛くて。どうしよ」
「周りに聞こえるよ……」
恥ずかしくてTシャツの裾 を引っ張ったら、藤堂くんは眉根を寄せておかしそうに笑った。
からかわれるのでさえ幸せだ。
他人に聞かれてしまったら恥ずかしいと思う一方で、誰でもいいから、おれたちが幸せだと認めて欲しいと思ってしまう。
ぼんやりと、愛がどうとか、そういう『普通』のことは自分の人生には無縁なのだと信じていた。
それなのに、いや、それだからこそ、こんなに急に夢見ていたものが手に入ってしまったら――少々歪 な問題はあるにしろ――手放しで欲深くなってしまうのかもしれない。
おれがこのかっこいいひとと恋人同士で、お互いに好きで、すごく幸せなのだということを、誰かが言ってくれたらいいのに……。
「すみません、これください」
はっと気づくと、藤堂くんが、いちごパフェを手に取っていた。
値札には4,000円とある。
「えっ、買うの?」
「うん。だってふみはこれが好きなんでしょ?」
「そうだけど……けっこう高いし、」
「記念記念。何か使い道があるわけじゃないけどさ、出かけたっていう思い出が欲しいなって」
つやつやのパフェと、目を細めて笑う藤堂くんの顔を見比べる。
頬がちょっと赤いのは、暑いからってわけじゃないと思う。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
店頭ディスプレイには長いスプーンがついていたけれど、どうやら別売りらしい。
買おうかな……とチラリと考えたけれど、スプーンだけ買うというのはあまりに値段が釣り合わないので、おれはおれで、別のおみやげを考えることにした。
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