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 お子様ランチの皿。  オープンカーみたいになっているやつ。  あれを買った。  藤堂くんは、子供みたいに目を輝かせて喜んだ。  曰く、『ちっちゃい頃、ファミレスとかあんまり行ったことないから、夢だった』とのこと。  お金持ちだと庶民的なファミレスには行かないのかな、と一瞬思ったのだけど、すぐにそうじゃないことに気づいた。  薄々感じてはいたけれど、藤堂くんは、親との関わりが極端に少ない気がする。  日常生活で家族の気配が全くないのも気になっていたし、幼少期の思い出の話になっても、どうにも空っぽに聞こえる。  この空洞の正体が親の不在なのではないかと、そして、彼の虚言癖の原因なのではないか。  と、パトカーのお皿をうれしそうに愛でる横顔を見ながら思った。  うれしそう、なのに、寂しそうなのは何でだろう――  おれは大胆にも、隣駅に行かないかと誘った。  浅草の隣、鶯谷(うぐいすだに)は、東京屈指のラブホテル街である。  まあきっと、藤堂くんはラブホテルなんて慣れてるだろうけど……と思ったが。 「すっごいドキドキした。止められたらどうしようって」  カラフルに光るバスタブに浸りながら、藤堂くんは恥ずかしそうに笑った。 「おれのせい? 子供っぽいから?」 「いや、そうじゃないよ。変な話だけど……どうでもいい奴と入るんなら、止められたら逃げちゃえばいいわけで。でもふみは大事だから、絶対守りたいし。だから緊張した」  守りたいなんて言われて、キュンとしてしまう。 「でも……エッチはやさしくできないからね、ごめんね」 「う、うん。いや、最近はなんかもうそういう感じで期待してるし」  いじわるされたり、自分勝手に無理やりされると、興奮する。  もしかしたら元々Mっ気があったのかもしれないけど、多分それだけじゃない。  止められない衝動をぶつけられるごとに、ものすごく甘えられているような気がして、愛しくなる。  ザパッと音を立てて、両腕を大きく広げた藤堂くんが、「ん」と言う。  おれは何も言わずに背中を預けた。  バックハグで抱きしめられたのでさらに密着すると、藤堂くんは既にゆるく勃起していた。 「ふみは優しい。何でも受け止めてくれて、甘えたくなる」 「甘えていいよ、だって、」  恋人だもん。  ……というそのひと言が照れ臭くて、おれは無意味に顔を洗った。  藤堂くんはおれを抱きしめる力を強めて、体を引き寄せた。  耳を()む仕草は明らかに性的なもので、それだけで興奮してしまう。 「……ぁ、とうど、く……ん、まだだめ」 「どうして? したくない?」 「はあっ、お風呂じゃやだ……」 「やだって言われるとしたくなっちゃう」  コリコリと乳首を擦られて、身悶えてしまう。 「あンッ、や……、ぁ」 「気持ちいい?」 「んぅ、ん……、勃っちゃう、んん」 「可愛いね。ベッドでしよっか。立てる?」  と言いながらも乳首を擦る手は止めてくれなくて、おれがびくびくと跳ねるたびに、お湯がザブンと波打つ。 「はぁっ、も、藤堂くん、いじわるしないで……」  半泣きで振り返ると、藤堂くんは満足そうに目を細め、キスしてくれた。  自ら舌を差し出してしまう。  激しく絡め合いながら、お湯の中で藤堂くんの手を探り当てて、ぎゅっと繋いだ。 「いじわるしてごめんね。ちゃんとベッドでしよう?」  くたっとした体を預ける。  藤堂くんは、「可愛い」と耳元でつぶやいた。

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