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4 暴くこと
夏休み最後の週。夕方。
予告通り、藤堂くんが家に来た。
モモンガのキャリーを提げて。
「うわあ、ほんとに連れてきてくれたんだ! ありがとう」
「泊まりでもなきゃ、この子が遊んでるところ見せられないもん」
「触ったりできる?」
「もちろん。もこもこで可愛いから、お楽しみに」
父は元々出張だったし、おれたちが適当にコンビニ飯を部屋で食べると伝えると、母も友達と飲みに行く約束をとりつけていた。
藤堂くんが来る少し前に出かけて行ったので、家には誰もいない。
部屋で向かい合わせに座りながら、藤堂くんは言った。
「お母さん、気遣わせちゃったかな」
「ううん。うちの親、割と保守的で、主婦だから子供を置いて夜でかけるとかしちゃいけないと思ってるみたいで。だから、たまには家事は忘れて好きなことして欲しかったのもある」
「ふみは家族想いだね」
「そういうわけじゃないけど」
いまだにあまり話題に上らない、藤堂くんの家族。
少し寂しそうな表情に見えたので、おれはその頬をするすると撫でた。
「メインは、藤堂くんとふたりになりたかっただけだよ。親が羽伸ばすかどうかなんて、後付けの理由で」
「ん。そっか」
その表情を見て、キスしたいのかな、と思った。
何も言わずに自然に顔を近づける。
藤堂くんは応えるように、控えめに音を立てて、何度か口づけてくれた。
至近距離で彼の瞳を見つめると、愛しくてたまらなくないなと思う。
「……自分の部屋に好きなひとがいるの、不思議な感じ」
「俺も、ふみはいつもここで俺と電話しながらひとりエッチしてるのかーとか」
「え!?」
「あはは、冗談冗談」
立ち上がりかけたおれの腕を掴んで笑う。
おれは恥ずかしくなって、唇を変な風に曲げた。
「ごめんごめん。からかっちゃった。泊まりに浮かれてるな」
「藤堂くんでもそんなテンションの上がり方したりするんだね」
「そりゃそうでしょ。眠る前に最後に見るのがふみで、朝起きて最初に見るのがふみなんだよ? 最高すぎる」
藤堂くんはコンビニ袋に手を突っ込んで、ガサガサと中身を取り出した。
「あーんしようか」
「藤堂くん、キャラ崩壊してない?」
「もう開き直ってる。だって、ふみ大好き」
まだ嫌われていなくてよかった――
おれは内心ほっとしながら、おにぎりのフィルムを開け始める。
藤堂くんは本当にあーんをしたいようで、うずうずしたようにおれの顔を覗き込んでいた。
「じゃあ、……してくれる? おにぎり、はい」
おにぎりを手渡すと、藤堂くんは俺のすぐ横に密着して、目の上あたりにおにぎりを持ってきた。
「はい、あーん」
首を伸ばして、かじる。
ギリギリのところで焦 らされて、かじりそこねる。
なんだろう、なぜだか、すごくエッチなことをされている気分だ。
「ん、ふぅ。上手に食べられない」
「頑張って」
「は、……も、やだ」
何をされているわけでもないのに、はくはくと息が上がる。
藤堂くんは愉快そうに目を細めてから、おにぎりを返してくれた。
「ダメだ。いじわるしたくなっちゃって、これじゃあ一生食べ終わらない」
「うん……」
もじもじと姿勢を変え、うつむく。
様子に気づいた藤堂くんは、おれの頭をなでた。
「勃っちゃった?」
「だ、だって、藤堂くんが変なからかい方するからっ」
おれは、もぐもぐと食べながら、藤堂くんの肩に寄りかかる。
ケージの中では、目を覚ましたらしいだいきちが、ここはどこだろうと言いたげに、きょろきょろしていた。
うずっと欲求が湧き上がりそうになるのを、深呼吸して抑える。
「食べたらすぐお風呂入ろ。湯船一緒に浸かりたい」
「うちの風呂狭いよ。足伸ばせないし、多分藤堂くんちと全然違うと思うけど……」
「狭い方がふみとくっつけるからお得」
屈託なく笑う藤堂くんは、もたるかかるおれにさらにもたれかかるようにしながら、サンドイッチを頬張った。
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