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第2話

馬に乗ると彼女の事を思い出してしまうので、俺は実技ではなく学科の教官を希望し、任命されていた。 「……この場合、まず隊列をこのように変化させると……」 彼女の事を考えないように、今までの経験を基にどのような戦略を取るか、どのような騎乗をすべきか伝える。 騎士団候補生たちは俺の話に硬い表情で真剣に耳を傾け、ペンで教科書に俺の話を書き込む者もいた。 その中で。 たったひとり、ずっと俺を見ている候補生がいた。 栗色の髪に少し日に焼けた肌。 大きな青い瞳が印象的な少年だった。 終始その瞳を輝かせながら俺を見ている少年。 ちゃんと話を聞いているのかと思っていたら、授業が終わると真っ先に俺のところに質問に来ていた。 「ミハイール先生!!」 「……どうした?」 「今日のこの陣形なんですが……」 アレクサンドルと名乗る少年は、聞いていないようで俺の話をちゃんと聞いていて、その上での自分の考えた事、感じた事を伝えてくる。 「確かに面白いが、その場合、馬に負担がかかってしまう可能性がある。得策ではないな」 「そっか、そこまで考えてなかったです。先生は馬の事もちゃんと考えた上での戦いを考えていらっしゃるんですね!」 曇りなき瞳でそう言われて、俺はその瞳を逸らしたくなった。 『メドヴェージツァ!!』 あの日の、あの時の、脚が折れてもなお落馬して動けなくなっていた俺の傍に来ようとした彼女の姿が浮かんでしまう。 「……馬は道具じゃない、仲間だ。だからこそ馬の安全を考えた戦いをしなければならない……」 俺は、どんな顔をしてこんな話をしたんだろう。 自分が出来なかった事を年端もいかない少年に話すなど、間違っていただろう。 だが、伝えたかった。 俺のような思いをして欲しくない、そう思ってしまったんだ。 「わぁ……先生もそう思うんだ。嬉しい……」 「??」 少年は顔を紅潮させ、少し興奮気味に話し始める。 「オレ、牧場で生まれ育ったんで、馬は家族と同じだと思ってます!他の先生方の中には馬はいくらでも代わりはいるみたいな言い方をする先生もいますけど、先生はそうじゃないんですね!!だから若くても団長をされていたんだ!!」 晴天のような青い瞳に光が一層宿っているように見えた。 その瞳は恐らく、憧れの眼差しで俺を見ていた。 俺はそれに値する人間ではないのに。 「オレもいつか先生みたいな団長になりたいです!!なれるように頑張ります!!」 「……俺みたいになる?やめておいた方がいい……」 嬉しそうに話す彼に、俺は吐き捨てるように言ってその場を後にしてしまった。 これ以上、仲間を守れなかった不甲斐ない自分を褒められる事が辛くなってしまったからだ。

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